触れ合うことから
始まればいい













『お手をどうぞ 2』














クラスの代議員になってしまったオレ、花井が
放送による召集をかけられたのが3時間目が終わった直後。
1年の代議員のみの呼び出しだったので
何か連絡事項があるんだなと思い、職員室へ向かった。





説明を受けてクラス全員分のプリントをもらい、職員室を出る。
その棟端の階段の踊り場でオレは田島に会った。
「お手っ」
「はァ?」
まるで犬っころのように、近づいてきてそんなことを言う。
見えないだけでほんとは尻尾がついているかもしれねェけど。
でもお手をするのは犬のほうだよな…と突っ込みもいれてみたりして。
左手はプリントの束を抱えていたので、
空いていた右手を田島に向かって差し出す。
「お手」
「はないー」
その手をぎゅうっと掴まれた。
「…どした?」
「やっぱ足んねェ」
「?」
意味がよく分からず、首を傾げた。
次の瞬間田島は持っていた教科書を床に落とし
そのままオレに抱きついてきた。
「ちょっ…おまっ」
驚くと同時に、頬が熱くなる。
田島はオレを見上げてうれしそうに笑った。



くりっとした丸い瞳を輝かせて
そしてそれを細めて笑う。



けれど、その笑顔はすぐに消えて
田島はオレを見つめて黙ったまま。
その丸い瞳を見開いて。



何かあったのか?
それとも、オレ、何かしたっけか?





「田島…?」
額を軽く人差し指で突付いてみた。
するとまた目を細める。
もうすぐチャイムが鳴るからなのか、
この辺りには人気がなかった。
抱きつかれたまま、オレは動けないでいた。
「あのさ、三橋がさ」
「うん」
「阿部とお手とか、しちゃってさ」
「…うん?」
「さっき廊下で」
「へェ」
「オレも花井としたかったんだ。でも足んなくて」
「……」
「手だけじゃ足んねェよ、もっとぎゅっとしたい!」



お手をしたくて、オレを追って
わざわざ休み時間にここまで来たのか。
すれ違いにならなくて良かった。
そして実際手だけじゃ足らなくて、抱きついちまったのか。



真っ直ぐにオレを見つめる田島が
すごく可愛く思えて、
今度は頭を撫でた。
うれしくてオレも笑った。
田島が何か言おうと口を開いた時に
チャイムが鳴った。







「ヤベ〜っ!!泉に怒られる!」
田島は慌てて体を離し、落とした教科書の類を拾う。
情報と書かれた表紙が目に留まり、オレは青ざめる。
「おまえ、次パソコン室か!こっからじゃ遠いぞ」
「うわうわ、花井、またな!」
「今日放課後部長会議で来るの遅くなるからな!」
「了解っ」








田島の姿を見送ってから
オレも駆け出した。





頭の隅に
泉の怒った顔が浮かんだ。










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BGM : スピッツ『リコリス』






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2006.2.19 up