切なくて切なくて
その切なさの分、こいつが愛しかった。







田島の両腕の力が抜けたのを見て
オレはその腕を顔からゆっくりと剥がす。
その顔を覗き込むと、田島が目を開けた。
腕は左右に広げて雪に押し付ける。
ひやりとした感覚もお互いの手が持つ熱で
きっと気にならない。



オレは顔を下ろして唇をあわせた。
それは触れて。
すぐに離して。
柔らかな感触だけを感じた。
今はそれだけで良かった。





田島とのキスは
初めてじゃない。





顔中に広がる熱をどうしようもなく放置したまま
田島から手を離す。
「痛くっても辛くってもそんなの当たり前なんだぞ。
特別な好きなんだからな」
「はないも…オレ好き?特別?」
「…あのな、特別じゃなかったらキスなんかしねー」
ああ、やっぱそうなのかよ。
あん時のあのキスはこいつどう思ったんだと
問い詰めたくて、できなくて、ひとりごちる。
「痛い?」
そう訊いてくる田島の真っ直ぐな目を見て
こいつはきっと誰にも言えず、痛さだけを抱えて
ずっと悩んできたんだな…と思った。
「……ああ、ずっと。オレもな」
オレも同じだ。
同じだった。



田島は袖口でぐいと涙を拭いて、そして笑った。
体を起こして空を見ていた。
視界に光が広がっていく。
その光を雪が弾いて、ああどうして。
どうしてこんなに綺麗なんだろうな。







「はないっ」
声に反応する前に、田島は座っているオレに飛び込んできて
受け止めきれずに雪の中二人で重なり合って倒れた。
「痛っ、たじまっ、お前な…」
今度は田島がオレの上に乗っかった形になり
その状態でぎゅっと抱きしめられた。
「…はない、はない」
オレの肩に顔を埋めて、すりすりと顔を擦り付ける。
その顔を見るととても幸せそうで
…オレは泣きたくなってしまった。
田島の背中にそっと手をまわす。
もっと早くに気がついてやればよかった。
こんな風に長い間、辛い思いをさせてたなんて知らなかった。
「放っといて、ごめんな」
田島は何も言わず再び擦り付けてくる。
「相手が女の子だったら、お前もっと早くに
気がついたかもしれないのにな」
そう言うと田島は少し体を起こした。
「…花井は花井だろ。他の誰かの話はしてねーぞ」
「ああ、そうだな。お前にそう言われっと…うれしいな」





「はない」
太陽の光を背負って
田島は目を細めてにっこりと笑顔だ。
この笑顔が可愛いんだ。
「ん?」
「もいっかいちゅーして」
「は?…何、お前」
「もっかい♪」
うう…と声を漏らして硬直してしまう。
たぶんオレの顔はまだ赤いだろう。
田島の瞳はオレをじっと見つめている。
そこに宿る光が眩しくて…
「田島、今度は目閉じろよ」
「はない、すき」
「…ばか」
目を閉じた田島の頭を引き寄せて口付けた。



何だかもう
どうしようもなく幸せだった。











これからの人生の先に
何が待っているのかは
分からないけれど



オレはこいつと
ずっといっしょに
歩いていけたらいいなと思う




光をずっと
見つめ続けて




自分の気持ちだけは
偽らないでこのまま
生きていたいと




ただそれだけを願った














気に入ってるのは
「そらをみたい」と思う田島と
「そらをみせたい」と思う花井の
対比とかそのへん…。
こういう対比って気になります。
「勝ちたい」と思う某投手と
「勝たせたい」と思う
某捕手などもそうですね(笑)


この『光』が『朝焼け』より先に
頭に浮かびました(笑)
なのでこんなことに。
「冬」は田島視点で
書かないといけなかったのにっ。


タイトルはやはり
レミオロメンの「春夏秋冬」からです。






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2006.3.13 up