少しでも
繋がることから
始めたいんだ






『繋がり 2』






会いたかったから、来たんだ。
だからなーんも後悔はしていないんだ。

だけど、態度が違うんだよなあ。
オレ、田島と二人きりの時と、そうでない時の。
「田島はさっさと帰れ!チャイム鳴っから!!」
「アズサノイジワル」
「かえれーっ!」
二人きりの時はそうでもないのに、大勢の中だと花井は途端に気難しくなる。
顔にほら、漫画であるような縦線が貼り付いているような気がする。
会いたかったから、来たんだ。
阿部についてきたという口実で。
口実だったはずの阿部はさっさと自分の席に戻り、何やらノートを広げている。
だってだってだって。
あのバッテリーの『お手』は羨ましいよ。
見ちゃったら会いたくなるじゃん、やっぱ。
さすがに七組の面々にとってオレの存在自体は日常茶飯事になってしまったようで、
すっかり馴染んでしまっている。
つか、この一年でオレも少しは大人になった、なったと思う。
なったんじゃないかな。
こんな歌、どっかになかったっけ?
さすがに台風みたいだとは言われなくなった。
「遊んでくれたら帰っからさあ!」
「……ほんとか?」
オレは首を上下にぶんぶんと振る。
「んじゃ、お手!」
「わんっ!!」
ノッてやる。
つか、ノセられている?
ようやくオレの扱い方がどうやら分かってきたかなとも思うのだ。
重ねて、繋がっている手があったかいなあと、ぎゅうっと花井の大きい手を掴む。
「はないー」
「…どした?」
「やっぱ足んねェ、帰りたくない」
ないけど、ぼちぼち怒りを携えたお迎えがやってくっから帰んないと。
花井は息を詰まらせる。
無茶振りなのは分かってっから。
抱きつきたいけどさ、さすがに今はダメかなあ。
うん、やっぱ、ちょっと大人になってしまった。

そうして声が落ちてきた。
「……後で」
小さく唸ったあとの花井の声はちゃんとオレに聞こえた。
「!!」
言葉の意味を正しく汲み取って、オレの表情筋が直ぐさに緩む。
「後でな」
小さな小さな声だった。
うれしくなって、自然と頬が熱くなる。
ああ、やっぱ抱きつこうかなあと思い立った時には、シャツの襟首を摘まれ、
泉によって7組の教室から強制退場させられてしまっていた。

「まだそばにいたい!」
「ダメ、戻る」
「レンひとりで放っといていいのか!!」
「浜田がいるから」
「!!」
だから大丈夫なのねと納得しつつ、最近は何度もこんな会話をしてきたように思う。
「また後でも会えっだろうが」
「会いたい時に会いたいんだよー」
泉が立ち止まる。
「……その気持ちは、分かる」
「だろー?」
「んだけど、授業のほうが大事!走るぞ!」
「んにゃーっ」


もう前みたいにはさ、
小さいワンコみたいに抱きついていくことはできなくなったけど。
そうじゃなくて、もっとちゃんと。
花井と向き合っていきたいと思うんだ。


そこはほら。
ゲンミツに。














「お手をどうぞ」から季節を一巡りさせた後の彼らの話。
日常の話(もちろん野球も彼らの日常なのだけど)で始まり、
そして終わっていきます。
この一年間でいろんなことがあって、
彼らの関係はどのように日常レベルで変化したのかな?というお話。





BGM : 音速ライン『空になる』
(曲も歌詞もドンピシャすぎて、この曲と出逢った時にはたいそう悶えておりました)











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2020.7.5 up