ゆめなのかな
ほんとうなのかな

だいすきな
あべくんといっしょに

よるのなか





『真冬の夜の夢』






音がどこにもないようだったので、
オレ、三橋はここが現実なのか夢なのかが分からないでいた。
夢のかけらを抱えたままで、目を覚ましたような、そんな感じ。
視界を覆いつくす闇は、まだ夜の時間のはずだった。

音が、探してもやはりどこにもないようだったので、
ここがどこなのかもすぐには分からなかった。
どうやら自分の部屋ではないようだ。
ほら、部屋に取り付けられている、
あまり好きではないエアコンの稼動音もしていない。
寒くないのはなぜだろう。
体は動かせないけれど、ほわりとした温かさに包まれている。

ああ
あべくんのにおいだ
どきどき
する

「……、ん、まだはえーよ、寝てろ」
背に回っていただろう腕が掻き抱くように、オレの体を引き寄せる。
ようやく阿部君に抱きしめられている、
自分の頭は阿部君の腕に抱かれ、胸に顔を寄せているのだと気が付いて、
火がついたように頬が熱くなった。
「ど、ど、どうし、て、」
掠れた声が漏れる。
「おやすみ、三橋」
再び眠りについた阿部君を見て、オレの意識は一気にクリアになる。
そうだ、ここは現実で、阿部君の部屋だ。
家を飛び出して、阿部君のところまで来てしまって、
怒られるのが怖くて逃げてしまったけれど、やはり捕まって。
そのまま阿部君の家にお泊りすることになってしまったのだった。
夜闇に目が慣れたのか、少し体を離すとやっと阿部君の顔が見れた。

ああ
かっこいいなあ
だいすき
だいすきだ




同じベッドで向かい合って、手を繋ぎながら眠りについた。
お互いの存在を確認するように指は動いて、
何度も何度も手を繋ぎなおす。
もう一方の手で、頭を撫でられ、
感触を味わうくらいの小さなキスも下りてきた。

さむいよるでも
くっついてると
あったかいね

確かにそうは言ったけれども、
抱きしめられて眠っているというこの状況には驚いてしまう。

だって、ずっと触れることすら難しかった。
赤い世界に怯えながら、
背と背で触れ合った記憶だけを大事に抱えて、
阿部君が傍にいない日々を過ごしてきたのだ。



温もりに微睡みつつ目を閉じると、昨日の阿部君の声を思い出す。
「来い」と言ってくれた。
あの時のオレも一緒に受け止めると言ってくれた。
うれしかった。
ただひたすらにうれしかった。

まるで夢のように幸せで、それが続くことをひたすらに願う。
願いつつ、目を閉じて睡魔を引き寄せる。
この幸せが、ずっと現実でありますように。






ここはまだよるのなか

だいすきな
あべくんといっしょに

しあわせな
ゆめのようなほんとうのなか










「夜を駆ける」のおまけです。
サイト開設10周年記念でもあります。
ミハが、可愛くてたまらんっ。









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