こわれることに
おびえてちゃ



つながることなんて
えいえんにできない










『グラスハート5』










耳障りな音と共に、視界を通して衝撃が走る。
窓際の1番前の席でぼーっとしていたオレ、水谷は
阿部に向かって降るガラスの破片を見てしまった。





足が床に張り付いて動かない。
「阿部!!」
すぐに近寄った花井を見て、我に返り、そして三橋を探した。
ドアの傍で震えているのを見つけた。
しっかりしろ!と自分に言い聞かせ、三橋の元に向かった。
音も声もざわめきも頭のどこかに引っかかって渦巻いていた。








「来んな!!三橋!」








腕を伸ばして阿部に近づこうとした三橋に阿部が怒鳴る。
震えながらもさらに近づいていく。
「危ねェから近寄んな!!水谷!そいつこっちに近寄らせんなっ」
確かに、散らばったガラスの破片の中に三橋を入れるわけにはいかない。
三橋の肩を両手で掴む。
「三橋、ダメだよ!危ないよ!」
「やだ」
「やだじゃなくて!」
三橋は首を振る。柔らかい髪がわさわさと揺れた。
「やだぁっ!阿部君っ!!」
強い力でオレから離れようとする。
「クラス戻ろう、三橋ぃ。阿部は大丈夫だから、きっと大丈夫だから」
たぶんオレの言うことなんか聞いてないだろうなと思いつつ
それでも声をかけずにはいられない。
「このまま授業はたぶんムリだ。三橋保健室連れてくぞ」
「いずみー」
助っ人登場に張り詰めていた気持ちがちょっと楽になる。
三橋が泣いてて、いつも泣いてるヤツだけど阿部を見つめて泣いてて
その姿が辛そうで自分の非力さをここでも十分に思い知らされる。
「泣かないでよー」
とにかく三橋を教室から出さないと。
「おら、水谷。オメーもしっかりしろ。引きずってでも連れてくから」
泉の声に頷く。
自分が弱気になっていてどうすると思う。







その時、三橋の体が傾く。慌てて抱きとめて支えた。
どうやら気を失ってしまったようだった。













三橋を泉と共に保健室へ運び、見るからに具合が悪そうだった泉も
ベッドの空いてる方に無理やり寝かせた。
こないだ花井に聞いたところの泉のダメージの強さを感じて
少しでも休ませたいと思う。




「…ん…」
三橋が目を覚ました。安堵する。泣き顔のままこちらを見ている。
「まだ寝てなよ」
そう言うとそのまま再び目を閉じた。
閉じられた三橋の瞼から雫が流れ落ちるのを見た。
こんな風に泣かせたくはなかったのに…。
……阿部は大丈夫だろうか。
オレの視界も潤む目を通して揺れていく。
















栄口に会いたい。








たくさん抱えているさみしくて泣きたい気持ち、
そんな自分の気持ち隠した
にせものの笑顔でもいい。



オレを幸せにしてくれる
栄口の笑顔に会いたいよ。













その後、保健室の先生がやってきて
目覚めるまでは2人を寝かせておくことになった。
たぶん阿部は両手をケガしてるから
下手すると校医先生のトコから真っ直ぐ帰宅になる確率も高いので
三橋は自分が送っていこうかなと思う。




泉は…浜田にメールをして迎えに来てもらおうか。
三橋と泉の荷物を持って来てもらおう。
今日はさすがに部活はないかもしれないな。
せっかくのいい天気なのに…と
オレは窓のむこうの青空を見て、大きく大きく息を吐いた。




少しはオレ
頑張れてるよね?











ぼーっとしてたら携帯電話が震えた。
マナーモードにしていたので音はならず、寝ている二人を起こすことはなかった。
ディスプレイに表示された阿部の名まえに、
慌てて保健室の奥に行き、電話に出た。
『水谷か』
「なんでオレなの、三橋にかけねェの?」
『あいつ携帯カバンの中だろ。…三橋は?』
「阿部、いまドコいんの」
『強制送還で家!三橋は!?』
うわ、やっぱり校医先生のトコから家に帰らされたんだ。
車で送っていったのは担任だろうか。
「一度目を覚まして、また今眠ってるよ」
『そうか…』
「荷物どうする?家まで持って行こうか?」
『水谷』
「なぁに?」
『お前一番オレたちの事情をわかってっだろ?三橋を連れてきてくれ、頼む』
「おやま、そういう物言いはめずらしい」
電話の向こうから舌打ちの音が聞こえた。笑っちまう。
『茶化すなよ……会いたいんだ』







ああ、そうだよね。
会いたいよね。




十分すぎるほどに
その気持ちは分かって。








「ねぇ阿部、それちゃんと本人に言ってあげなよ」
『ああ?』
「起きたみたい、三橋に代わるね」
ベッドの上起き上がって、まだ涙目でこちらを見ている三橋に
「阿部だよ」といって携帯を渡した。
「あ あべ くん」
涙をいっぱい溢れさせて、声も手も震えたままで
それでも阿部の名を呼んでいた。
何度も何度も頷きながらも、三橋は。





浜田に阿部の分もカバン持って来てと頼んでいいかな。
オレの分は後で取りにいくから置いといて、ということならいいかな。
そんなことを思いつつ、でもさっさとメールをしちゃう自分がいる。
あっさりと浜田は了承してくれたので、その辺はよしとしよう。













そしてそれから栄口の携帯にメールをした。
ひとことだけ。
「会いたい」って。









もしも、会えたら栄口…
オレに笑ってくれるだろうか。




オレは栄口に向かって
ちゃんと笑えるだろうか?
















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2007.2.23 up