『つきのかけら 4 (トメラレナイ)』












ミーティングが早く終わった日の夕方だった。








何処に行くんだろうと思って
オレは巣山を追っかけた。





図書館での彼、
しばらくは声をかけるのを逡巡して
でも広い背中、その無防備さが何故かうれしくて。





揺らがないって知ってるから
甘えてみる。





感じたのはその重みと体温で。
うれしくてうれしくて、苦しくなる。





苦しい、
その理由はオレには分かっていた。






息ができなくなって、
きっと酸素が足りなくなってて。
吐くのを忘れて吸うばかりで、
それでも酸素を求めていた。





苦しい。
何が苦しいって、











…きっと自分ばかりが好きなのだ。












それに気がついてしまった。





どうしよう。















気持ちは止められない。
昨日より今日
余計好きになっていく。





友達だと思ってくれているのに、
向こうは親愛の情を笑顔と共に
こちらに向けてくれるのに。





自分の感情から逃げることができなかった。
だって。
せめて今まで育てた、
巣山との関係は壊したくは無くて。





だとしたら、どんなに辛くても、
この想いが報われることがなかったとしても。





認めていくしかないのだ。
自分の気持ち、
それを恋だと認めて抱えていくしかないのだ。


















「水谷…?どうかしたか?」
図書館を出た、けれどまだオレたちは学校にいて。
コンビニで巣山に奢ってもらったケーキを前に
ぼーっとしてたら、声をかけられた。
「ううんっ、いただきまーすっ♪」
ケーキにかぶりつくオレの横で
巣山は新発売の無糖の缶コーヒーを飲んでいる。
まじまじとこちらを見つめてくるので、いくらなんでも恥ずかしい。
「…何だよ」
「いや、ほんと美味しそうに食べるなって思って。
スゲー幸せそうな顔で食べてんだもんな。そんな好きなんだな」
「へへっ、ありがと」








だってさ、巣山。
お前に奢ってもらったケーキなんだよ。






うれしくないはずないじゃないか。















だから。
今のこの関係を壊したくはないんだ。
巣山の笑顔が傍にある、大事な時間を。








どこまで耐えられっかな…、オレ。









優しい手も瞳も何もかも、その背すらも
自分だけのものにしたくなる。




そんな日が来たらどうしよう。













気持ちは止められない。
昨日より今日。
たぶん、今日より明日。









余計好きになっていく。



オレは、巣山を。


















*

『ぬくもり』の水谷視点です。







2006/5/26UP



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