『つきのかけら 1』








ちょっと風が冷たくなった
でもたぶんまだ秋の話。






夕闇に支配されてしまった空の下、
自転車置き場から自転車を動かしながら、オレ、水谷は巣山に
「今度お前が頭刈ってきても、触らないから」と宣言した。
巣山は暫しの沈黙の後「なんで」と言う。
一応理由を訊いてくれた。うれしかった。
そのままあっさりと肯定されたらどうしようかと思っちゃった。





「や、その度ってのもどうかなって思ってさ。
いっぱい触らせてもらって、楽しかったよ。ありがと」
「…水谷」
「あ、オレの髪だったらいつでも触ってくれて構わないんだけど」
「じゃあ、今」
「え?」
「今でも…いいか?」
それは問いかけの言葉だったが、
返事を待たずに手が伸びてくる。
髪をすく、巣山の指の感触に
うう…顔が熱くなってくるのが分かる。
動けない。






馬鹿だな、巣山。




せっかく逃げようとしてたのに。













……このままじゃ、
好きになっちゃうよ。













*

巣水の短いお話のかけらを書いていこうと思っています。
本編は巣山視点、ここ「つきのかけら」は水谷視点only。





2006/5/16UP



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