『つきのかけら 5 (七夕)』
七夕が近づいていた。
手を伸ばして掴んだ黄色の短冊には
辛うじて読めるひらがなで「さっかー」と書いてあった。
願いは「サッカー選手になりたい」だろうか。
駅に飾られている大振りの笹と
それに飾られている七夕の様々な飾りと
何処かの幼稚園生が書いたと思われる
たくさんの短冊を見て巣山が言った。
「水谷だったら、短冊の願い事、何を書く?」
「そうだなぁ…どうかな?…巣山は?」
上手く言えなくて、そのまま問いを巣山に返した。
「んー、ここはやっぱ『甲子園出場』…とか?」
坊主頭をかりかり掻きながら、ちょっとばかり照れながら
それでも巣山はそう言って、オレも「うん」と肯定した。
「でもオレ、何にも書かないで1枚飾りたいな」
「ん?」
書けない願いは叶えてもらえないのかな。
「いつまでも巣山とこうして一緒にいたい」と
1番の願いはきっと書けないだろうから。
笹飾りを黙って見上げていたオレに
巣山はただ、オレの頭をぽんぽんと叩いて
とびきりの優しい笑顔をこちらに向けて
「お前とずっと一緒にいたい、と書いてもいいよな」
オレの書けない願いをあっさりと言葉にした。
潤んだ目のオレを見て、巣山はすごく慌てていた。
オレがどんなに驚いたか、
どれだけうれしかったのか、
たぶん巣山にはわからないだろう。
願いは
願いは叶うだろうか。
*
時系列でいえば翌年の夏(2年生)に
なるのだと思います。
もうお付き合いしている
2人の話です。
2006/6/27UP