繋ぎ合わせたら
何がそこに見えるのだろう。











『しあわせの欠片』







素直じゃない。まったく素直じゃないと思う。
ぎゅうとオレ、浜田は泉の背中に抱きついて、すっぽりと腕の中に愛しい人を入れている。
ばたばたと暴れるのを楽に押さえ込むくらいの体格差はあるのだと自覚している。
年の瀬も押し迫った今日は12月19日。
オレの誕生日のはず、カレンダーは見えるところにないけれど、たぶんそのはず。
泉がちゃんとケーキ持って夜にご訪問してくれたから、間違いはないはず、だ。
オレが西浦高校に入って2年目の冬だった。
今年は西浦の野球部の、そして泉のおかげで、いろんなものを温かくしたまま冬を迎えることができている。





夜の浜田家(って普段はオレしかいねーじゃん)は、2人きりなのに今日も賑やかで。
「はーなーせっ、はまだっ」
「やだもーん、だ」
「んががっ」
「お前、自分の誕生日にはあーんなに素直だったのに、
オレの誕生日にも、も少し何かほらえーと!」
「ばーか。ばーかばーか」
泉の誕生日に泉が何故かとんでもなく素直で、お誕生日プレゼントも希望通りのものをもらっちゃって、
その素直さは確かにすぐに日常に紛れてしまったんだけど、オレの誕生日当日になったらまたほら、
20日前のように2人であまーい時間を過ごすことができるんじゃないかと思っちゃったわけですよ。
思うのは自由だ、うんそうだ。
でも泉の態度はいつも通りにつれなくて。
望みが叶わないのもしょうがないけどさ。
しょうがないけどちょっと悲しくなったので、泉のあごを掴んでこっちを向かせてキスをした。
「……んっ、はま……」
「大好きだよ、泉」
誕生日にはやっぱ愛の言葉を愛しい人に捧げたい。
しかーし、言い終わるか終わらないかのうちに、がつんと肘鉄を食らわされてしまった。
「痛ぇ」
痛さで倒れこんだオレを、泉は立ったまま見下ろしている。
そして、それは大きい大きい、ちょっとその長さはあんまりなんじゃないのと
思うくらいの溜息をついていた。
「お前なー……。
プレゼントはちゃんと前倒しでやってんだから、
一回きりじゃなくてずっとやりっぱなしなんだから、これ以上望んでんじゃねーよ」
吐いた言葉の意味をオレは最初理解できていなかった。
だけどオレは学校の桜の葉のように、赤く染まった泉の頬を見逃さない。
態度にも言葉にも誤魔化されないくらいには付き合いは長い。
オレはその頬の色に真実があるのだと、そういえばプレゼントは「泉自身」で、
意味をやっと十分に理解してうれしくなって、泉に再び、今度は正面から抱きついた。





「あー……愛されてるって感じ」
調子に乗って腕に力は入り、ぎゅうぎゅうと更に締め付けた。
「どこをどーしたらそんな風に思えんだ、浜田っ!」
その真っ赤っかなお顔がだよとは思ってても言わないでおく。
じたばたしている泉を押さえ込むのはもはやゲームのノリで、ただじゃれるよりは楽しさ倍増だった。
何だか足ががんがん蹴られてるようなんだけど、楽しさ余って気にしない!痛くても気にしない!
「ああ、でもさ、やっぱいつもの泉でうれしい……かな?」
「何言ってんだか、そんなんでうれしがんなよ。痛ェよ!」
そんなんで、うれしいんだよ。
いつもの変わらないいつもの時間は、安心感で満たされる。
目の前に居るこの愛しい存在は、きっといつの時でも欠片を両手いっぱいばらまいてくれる。





目には見えない、しあわせの欠片。





小さな小さなしあわせの欠片。
繋ぎ合わせて広がって、オレのささくれた心を優しく包む。




その可愛い顔、眩しい笑顔、大きくて潤んだ瞳、オレの名を呼ぶ声、柔らかい頬、抱き締める細い身体、
泉を構成していくたくさんのもの、そのすべてがオレにしあわせを運んでくれるんだと信じてる。




しばらくはもがいていた泉だったが急におとなしくなって、力を抜いてオレに身体を預けてきた。
おやおやと思って、「どしたの眠いの?」と一応は訊いてみる。
ここで眠られてしまったら、マジで寂しいんだけど。
「確かに」と泉が突然そんな単語を口にしたので、状況が飲み込めないまま首を傾げて、
次の言葉を待ってみた。
「オレの誕生日に、自分の気持ちのために素直になることができたんならさ、
オメーの誕生日にオメーのために素直になるってのもそんなのってやっぱアリなのかなーと思ってさ……」
うわーっ、そんなこと考えてくれちゃってたの!
なんてなんて可愛いの、泉!
まだそんなに赤い頬をして、まあるい目がこちらをじっと見つめていて、
オレは気持ちの抑えがどんどん効かなくなっていく。




「誕生日、おめでと」
今日何度目の祝いの言葉だったかは忘れたけれど、うれしい台詞を零されたらたまらない。
だってほら、また欠片が降ってくる。




小さな小さなしあわせを大切にして生きていこう。
過去の時間に自分を辛くする何が転がっていようとも、たくさんの幸せを繋ぎ合わせて、
愛しい人の存在を感じて生きていければいいなと思う。





小さなキスをオレは泉のまだ赤い頬に落とした。





しあわせな誕生日だった。










END











「浜泉誕生祝企画」さまに参加させていただきました作品です。
一応「Birth」の続きとなっています。










2008.1.6 up