『視線』
(2010年4月6日巣山お誕生日記念SS)






美しい造形をしている。
造形という自分のものでは有り得ないような単語が、
するりと巣山の脳内に現れた。
自分の真横に水谷はいて、ふわりと柔らかく、
野球部にしては少しばかり長めの髪が秋の終わりの風に揺れている。
整った目鼻立ちをしているのは、
春からこちら一緒に校内を歩いていて、
女子の注目を浴びている様からも窺えてはいた。



2人、校舎の裏を通って部室に向かう。
人気の無い一瞬のチャンスを狙って手を繋いだ。
冬に近付く北からの風にも冷やされずに、手の温もりが心地よい。
向けられる驚いた表情が思ったより可愛くて、こちらも笑みが漏れる。



あれはまだ記憶にもそう遠くない夏のことだった。
水谷はまだキレイな手の平をしていた。
マメが破れていないのは手の平が固いんだなと、
そんなことを言った記憶があるが、本気でそう思っていたわけではない。
「生まれつき」と言葉が返ってきたが、丸ごと信じたわけではなかった。
本当か嘘か、そんなことはどうでも良かった。
巣山は見つめるだけだった、水谷を。



いつのまに。
マメをいくつ潰したのだろうか。
あの夏が彼を、彼の意識を変えたのだろうか。
柔らかかった手の平の皮膚は硬くなって、
繋いだ手の感触で変化を実感することができた。



それはきっと努力の跡だった。



彼は野球をしているのだ。
努力して努力して、自分や仲間たちと同じように高い目標に向かい、
日々精進している。
その手を美しいと思う。
触れたいと思うほどに。



「巣山、オレ、」
水谷は急に立ち止まり、手の繋がりを見つめている。
「……迷惑か?」
「や、そんなんじゃないけど」
「ならいいだろ、部室まで」
そのまま手を引っ張って、巣山は駆け出した。












ずっと見つめていたからこそ気がついてしまった。
たとえ水谷の気持ちが自分以外に向けられていたとしても、
それはそれで構わないのだ。



水谷に対する好意は自然な形で自分の内に存在している。
いつの間に友達としてのそれから、
恋情を含んだ気持ちに近付いていったのかは分からない。










ただ視線だけが、彼を追っていた。



日常に紛れ込む形で当たり前のように、
彼への気持ちはあったのだ。









END















巣山お誕生日おめでとう!


どうも巣山→水谷のようですが、
これってなんだか続きがあるような気がします。
……続きを考えてみたほうがいいのかな?












2010.4.6 up