巣山の家では
今までねこを飼ったことがなかった。



だが最近になって
ねこを飼う人の、可愛がるその気持ちが
少しはわかるようになっていた。








『ねこねこものがたり』
(巣水ですが、水谷は女子です。ご注意ください)










例えれば、白いねこ。
ふわふわな毛を揺らして駆けて来る。
なんの曇りもないような瞳は
オレ、巣山をじっと見つめている。




昼休みの屋上で。
給水棟脇に座り込んで本を読んでいたオレを見て
水谷という名の、制服の短めスカートを穿いたねこは
小さく「にゃあ」と鳴いた。
喉こそ鳴らさなかったが、
少し眠そうな表情でオレの腕に擦り寄ってくる。




彼女とはクラスは違うが
同級生だった。




恋人でもなく、友達でもない。
例えていうならやはりねこだろう。
気が付いたら、傍にいるようになっていた。
オレの坊主頭がお気に入りらしく
隙を見つけては触ろうと手を伸ばしてくる。
だが今日は本当に眠そうで
目を擦りつつ、うとうとしている。
「…寝ちまうか?」
「うん」
そう言って小さなあくびをした。
しばらくして感じた寝息はやわらかくて甘くて、
それは自分にはないものだ。




「おんなのこ」というよりはイメージはやはりねこで
懐かれちゃったなあ、と的外れな台詞を吐いて
オレは周りの人間を驚かせてもいた。




柔らかくてふわりとしている水谷の髪を撫でる。
肉球はさすがにないよなあ、と思って、細い手を握った。
季節は夏が終わって、短い秋がやって来ていて
屋上で外の風を感じて過ごすには、最適な季節だった。
晴れた空は澄み切っていて、薄い雲が流れている。
何もかもが心地良い。




風も、空も、
ここにこうして彼女と過ごす
毎日の穏やかな時間も。
















オレの家では
今までねこを飼ったことがなかった。



だが最近になって
ねこを飼う人の、可愛がるその気持ちが
少しはわかるようになっていた。











ねこのように、
可愛い存在が、出来たのだ。






「ソラタカク」寺脇さんの2006年のお誕生日に
送りつけたSSです。







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2008.1.6 up