『お腹がいっぱい。』
(巣水ですが、水谷は女子です。ご注意ください)
寺脇さま










残ったお弁当を見て、一人、途方にくれた。
具合が悪いわけでも、ダイエット中というわけでもなかった朝ごはんはいつも通りに トーストとサラダとヨーグルト。食べ過ぎたわけでもない。それに今日は1時間目から体育だったから、いつもならお腹が空いて倒れてしまいそうなくらいなの に。(花の女子高生は食欲旺盛なのである。)

それなのに。
なんでだろう。

授業開始5分前の予鈴が鳴ったというのに、水谷の赤いお弁当箱の中身は半分ほど手 をつけられたものの、彩りをそのままにしている。その割りに水谷のお腹の中で虫が 鳴くこともなく、なんとなく満たされた状態だったのだ。どうしよう。食べかけのお 弁当は人にあげることもできない。だからといってもうこれ以上食べる気も起きな い。お母さんの作ってくれたお弁当を捨てるなんて論外だ。

仕方ない。部活前にでもなれば、無理に押し込むくらいのお腹は空くだろう。そう罪悪感を祈りで隠しながら、水谷はそっと気付かれないようにお弁当箱に蓋をした。


それを、部活前の部室で一人広げてもそもそとほおばる。先に着替え終わったチームメイトがおこぼれに預かろうと水谷の前にワンコのように座った。
「みーずたに!から揚げちょーだいっ!」
「んーいいよー。」
お箸でから揚げをつまんで、田島の口に放りこむ。
「んーまいっ!」
そうなのだ、お母さんの作るから揚げはとてもおいしくて、冷えてしまっていても十分においしいのだ。から揚げだけじゃない。ところどころが昨日の夕飯の残 りではあるけれどカリカリのチーズ春巻きやふわふわの玉子焼きなんかもおいしいのだ。にも関わらず今、水谷は無理やり押し込むようにしてそれらを咀嚼して いる。なんだか、お腹がいっぱいなのだ。
「まだ食べるー?」
そういって再びご飯をぽいっと田島の口に放り込む。
「ん〜〜〜!」
田島が満足そうな笑みを浮かべながらむしゃむしゃとほうばる。
そのおかげで、水谷のお弁当はすっかりと空になった。
「ごちそーさま!ありがとな、水谷!」
「いえいえーこちらこそ。」
「そいや、具合でも悪い?これ、お昼だろ?」
「ん、そうなんだけど。や、具合は悪くないんだけど、なんか妙に食欲がないってい うの?」
「ふーん…」
「うん、全然平気なんだけどね。元気元気。」
水谷が、そういうと田島はすくっと立ち上がって、ニカっと大きく笑った。


「お昼、巣山と食べてたもんな。」


それだけ言うと田島は荷物を抱えてグラウンドへと向かっていき、残された水谷は田島の言葉を解すると同時に、自分の不調を解し、ただただ赤面した。
巣山とお昼を食べることは今までも何度かあった。
けれど、昨日の部活の終わった後に、そっと告げられていたのだった。
コクリと頷いて、でも元々水谷も抱えていた気持ちがあったから、何も変わらないと思っていたのに。
しっかりと、心は大きく反応していたようだった。


恋を、わずらうなんて。
胸が、いっぱい。







「ソラタカク」寺脇さんの11月のお誕生日に「ねこねこものがたり」という
巣水(水谷は女子)のSSを突然送りつけたら、お礼のSSをいただきました。
ありがとうございました!


『ソラタカク』さま
 ↑
寺脇さんの素敵サイト『ソラタカク』
(花井と田島メイン、ミズサカ、巣水あり)は
上のバナーからどうぞ♪






back

2006.12.10 up