The last alphabet of tomorrow 9
「I」



『impatient』






20分休みが終わる予鈴が鳴って、
図書館にいた数十人の児童たちがドアに早歩きでダッシュしつつ、
それぞれの教室に戻っていく。
熱いとも思える夏がやってきていて、エアコンが入っている図書館はいつも大盛況だ。
水谷の元気な声が図書館内に響く。
「みーはしせんせーいっ!また手伝いに来るねーっ」
「あ、ありが、と!」
2時間目の授業の後、そのまま居残り組だった6年2組の数人も帰っていく。
図書委員だけではなく、ボランティアというか、図書委員の友達による6年生の働きに、
忙しい休み時間を助けられていることも多かった。
本を読んでも読まなくても、
心地良い「場」としての学校図書館を作り上げていきたいといつも思っている三橋は、
うれしさを抱えることができていた。




ふと気がつくと阿部がまだカウンターの前にいて、日誌に今日の当番の名前を記入している。
「あ、阿部君」
「ああ?何」
「名前書くの、昼休みでも、いいよ。水谷君や栄口君たちと一緒に、戻らなくて、よかったの?」
「……」
「……?」
「オレはあいつらの側歩くのは、……最近恥ずかしくってヤなんだよ」
「2人、仲いいよね。いつも手繋ぎして戻ってるんだよ、ね」
「それだよ、ありえねー」
小学生の男子たちはまだまだ子どもの部分をたくさん持っていて、
中学高校へと進む、その過程でゆっくりと大人になっていく。
小さい頃からすでに大人の部分を抱えていると言われる女子とは、
最初から違うような気がしている。
水谷と栄口の2人はふわふわとした柔らかい雰囲気を持っていて、
安らげる空気を纏っているように思う。
微笑ましいと思ってしまうのだ。
だが、三橋にとっての阿部はそうではなく、何故だろう、
近くにいると心臓の鼓動が早打ちする。
「三橋先生から見れば、オレらまだガキでしかねーんだろうな」
「そ、そんなことない、よ。10以上も年は、違う、けど」
「……っ、たったそんくらいしか変わんねーのにな」
阿部は苦い顔をして横を向いてしまう。
図書館内に最後まで残った阿部とたまにこうして話す機会があるが、
まだどこか怖いと思う部分があって、なかなか上手く会話が成り立たなかった。
それでも夏の季節を迎えて、以前よりは少しはマシになったとは思うのだが、
阿部から見るとどうやらまだまだのようで、
もどかしい気持ちを抱えさせているが分かって、三橋は悲しくなるのだ。









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2010/1/23 サイトUP





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