The last alphabet of tomorrow 8
「H」



『help』










「水谷!あいつはっ!」
イスを蹴飛ばしかねない勢いで、泉先生が立ち上がった。
立ち上がったと思ったら、
職員室の奥から行ける放送室に向かってダッシュをかけていた。
オレ、花井は他の級外の先生方と職員室で給食を食べている最中で。
泉先生は給食を食べかけでいなくなった。
それは給食委員会による放送が始まってすぐのことだった。




昼休みの放送は、給食委員会による今日の献立の説明と、
その日その日のテーマに沿って、給食の毎日の献立表に載っている、
泉先生が考えた長い文章が委員によって放送されている。
他にも先生方のお知らせや、曜日によって音楽委員会が音楽を流したり、
放送委員会が絵本を読むお話会やクイズなどの放送もある。
そういえばもう何度目だろう。
今日は献立表の文章を読んでいる途中に、
「失礼しました」の数がやけに多いことが気になった。
放送中に原稿を読み損なってつっかえたり、噛んだりすると、
必ず「失礼しました」と謝ってから先を続ける。
あんまりつっかえ過ぎると、原稿を読んでるんだか何だか分からなくなっていく。
「よく噛んで食べましょう」と、そういう話ではなかったか。
たどたどしくなってきた読みが、助けを呼んでいるように聞こえていた。
泉先生がフォローに走ったのも無理はない。
水谷くんといえば、各委員会の中でも一番のお騒がせ委員長だったような気がする。




思い返せば、水谷くんは引継ぎ期間の5年生の時に最初の放送当番をすっぽかし、
その日泉先生の雷が職員室内で落ちていた。
ポカをたくさんしつつも、
教師や委員たちに好かれているというキャラは貴重ではあるが、
泉先生は昨年に比べ放電しっぱなしで、それはそれで大変だなあといつも思っている。
放送の進行は、なんとか給食委員会のお決まりコーナーを終え、
音楽委員会による今月の歌の紹介にバトンタッチした。




「あんなにさっき練習してたのに!
やっぱ他のヤツじゃなく、サポートに栄口をつけるべきだったかなあ」
放送室から戻ってきた泉先生は冷めかけたミネストローネを流し込んでいて、
よく噛んで食べましょう、と周りの級外の先生方から突っ込みが入っていた。












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2009/3/23 サイトUP





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