The last alphabet of tomorrow 7
「G」



『God』










「さて、雨男は誰でしょうか」




先程湯飲みになみなみと注いだばかりのお茶をすすりつつ、
ぽつりと呟いたのは事務長の西広先生で。
事務職員である私、篠岡に向かっての発言ではないようで、
PCへのデータ入力をしつつ、さらりとスルー出来たのだけど、
問いを投げられた形になった新教務主任の花井先生は、
出て行こうとしていた事務室の引き戸の前で固まってしまっていた。
花井先生がどう答えを返すのかがちょっと気になる。
昨年度の教務主任の先生は今年度は西浦小学校に籍を残したまま、
北京の日本人学校に突然行ってしまった。
勤続年数が長かった花井先生がまだ若いのに急遽教務主任に決まってしまい、
それから嵐のような忙しい日々を送っているようだ。




まだ5月だというのに梅雨が近付いてくるのが肌に感じる湿気で分かる。
窓の外はどんよりとした曇り空。
来週は運動会だというのに、週間天気予報は雨マークが並ぶ。
西浦小学校の運動会は例年10月初めに行われていたが、
秋の行事の多さと準備期間のあまりの暑さに保護者からも要望が出て、
昨年から期間を5月の末に移行していた。
新年度を迎え、やっと落ち着いたと思ったら運動会の準備で、
先生方の日々は慌しく過ぎていく。
私が西浦小学校に異動してきた一昨年は運動会は秋だったのに雨がぱらついていた。
なんとか最後まで本降りになることはなかったのだが。
昨年もこれまた雨模様。
6年生のスタンツや応援合戦など大事な種目の順番を繰上げ変更し、
プログラムの差し替えをして午前中で運動会を打ち切ることになった。
できれば日程の延期だけは避けたいと皆思っている。
小学校の運動会は、学校側だけではなく保護者側でも大きなイベントだ。
延期になると仕事を休むことが難しくなる保護者もいるだろう。
こう何年も雨が続くと、確かに雨男あたり居そうな気もする。




「雨男……ですか?」
「どうも西浦には一人くらい居そうですね」
事務長は笑顔でそう問うている。
まだ事務長としては若いほうなのに、
校長教頭教務の三役とは別の意味でこの大きな学校を支えていた。
暫しの沈黙の後に、花井先生も笑顔で口を開く。
「では、体育主任ということにしておきましょうか」
才気煥発百戦錬磨海千山千魑魅魍魎の事務長に、
負けてないなあ、と思って可笑しくなった。






神様、神様お願いします。
子ども達も先生方も皆、運動会に向かって頑張っているんです。
私は事務室の窓のとおく、雲がたちこめる空を見つめて、
どうか運動会当日は晴れますようにと手を組み祈った。











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2009/3/23 サイトUP





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