The last alphabet of tomorrow 6
「F」



『free』










進級と入学のばたばたが治まり、
4月にある2年からの図書館利用オリエンテーションもようやく終わり、
あとは5月の新1年生を残すのみと、司書の三橋がちょっと落ち着けたのも一時で。
貸し出しが実際始まると毎日が忙しくなっていた。




2時間目と3時間目の間には、20分間の休み時間がある。




お昼休みは外で遊びたいので、
学校図書館で本を借りるのは20分休みにと考えている児童も多く、
いつもたくさんの人で溢れていた。
その上、昨日図書の時間に入り損ねていた2年生のあるクラスが、
休み時間が始まると同時に全員図書館に入ってしまって更に人口密度を増していた。
返却のカウンターにずらりと並ぶ列。
三橋はぐるぐると回りだした思考を放置しつつ、
図書貸し出しシステムのバーコードリーダを懸命に操作していた。
今日当番の図書委員はまだ誰も来ていない。
4人のうち2人は2時間目が体育で着替えのためか、いつも来るのがかなり遅い。
残り2人も職員室の図書主任の先生のところに、
図書委員会日誌を取りに行ってからこちらに来るのだろう。




貸出のカウンターの方にも児童が並び始めた。
待たせてることに非常に焦る。
いろいろいっぱいいっぱいで自分の不甲斐なさに段々と三橋は悲しくなってきた。
「三橋先生!返却替わるから、貸出のほう行ってろよ!」
聞こえたのは阿部の声だった。
「……な、なんでいるの?」
「何で、じゃねーだろが!前の時間はここだったじゃねーか!交替!!」
「は、はいっ」
そういえばさっきの2時間目は、阿部のいるクラスが図書の時間で入っていた。
そのまま残ってくれたのだろう。
うれしかった。
見るといつもばらばらの返却棚の本が整頓されている。
バーコードリーダを渡してその場を譲り、貸出カウンターの方に移動する。
その時、2人の男子児童がカウンター内に入ってきた。
「手伝います、せんせ」
「……!!」
返事をする前に、阿部の声が飛んできた。
「栄口、水谷!!カウンター内に入れんのは図書委員だけだ!出ろよ!」
「え〜〜〜〜っ」
「じゃ、返却棚の本を戻すのを手伝うよ、それならいいだろう?」
「ピッってしたーいっ」
短髪の1人がごねているふわふわの長めの髪形のもう1人を引っ張って、
ブックトラックの返却棚の場所に移動する。
3年生までは本をきちんと棚に戻せないので、
専用の返却棚に返却の手続きをした本を戻して、
それを図書委員が分類別にまた棚に戻していく作業をしている。
3段の大きなブックトラックから本は溢れ出ようとしていた。




短い休み時間はあっという間に過ぎていって、予鈴がなった。
「ほ、本を片付けて、教室に、戻りまーすっ」
三橋は児童たちに向かって精一杯の声を出す。
途中からは今日の当番の図書委員も加わって仕事をこなしていき、
なんとか列もなくなって、通常の忙しさに戻っていた。
人がやっと少なくなった図書館で、
図書委員たちは日誌にそれぞれ名前などを記入している。
その日誌には仕事をその曜日の当番以外で手伝ってくれた人を記入する欄がある。
「阿部君、ありがと。みんな、日誌に名まえ書いていって、え…と」
「阿部君と同じクラスの水谷でぇす♪」
「……水谷、君」
ふわりとした髪の子は水谷というらしい。
名札をつけてないから、名まえがすぐに分からなかった。
もう1人は名札を見た。
「さ、栄口君」
「はい」
明るい返事の栄口はにっこり笑顔でこう言った。
「また時間があったら阿部と手伝いに来ます、図書委員じゃなくてもいいですか?」
思わず三橋は顔色を窺うように阿部の方を見た。
図書委員の荷物入れの箱からブックバックを取り出しつつ、
阿部は「いいんじゃねーの」とぼそりと言った。




「ご自由にどうぞ。ボ、ボランティアは大歓迎だ、よ」
三橋は栄口にそう返した。
「オレもやるー、栄口オレもー」
水谷も横でばたばた跳ねている。
うれしくて三橋は笑顔で「ありがとう、よろしく」と感謝の言葉を出した。




西浦小学校は大きい学校で、児童数は1000人を超す。
図書館は特に図書委員の毎日の協力がなければ、日々まわっていかない状態だった。
司書としての仕事もなんとか慣れてきた。
賑やかになりそうだな、と、これからももっともっと頑張るぞと、
三橋はその気持ちを強く持った。




係わりたいと思う誰もが自由に係わることができるような、
そんな図書館にしたいな、と思うのだ。











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2009/1/24 サイトUP





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