The last alphabet of tomorrow 4
「D」



『distance』










「高校生になったら絶対に花井を甲子園に連れていく!」
顔中を涙で濡らしながら、がしがしと腕で拭いもしながら
卒業式の後に花井に向かって田島は言った。
「約束する」と。




今までにいろんな約束があった。
クラスの中でも元気印で「きまりを守る」という意識の低かった田島と、
彼の担任教師であった花井は何度も約束をした。
学校に関係が無い物は持ってきません。
授業中には騒ぎません。
学校図書館の高い本棚の上には上がりません。
もちろん自主的な約束ではないので、
なかなかそれらは守られないまま卒業の日を迎えた。




ピシリと指を花井の顔の前に1本立てて、
その後ぐちゃぐちゃの顔のままニシシと笑った。
この1年間で最初で最後の、彼から持ち出された約束が甲子園だった。
「花井」じゃなくて「花井先生」だろと突っ込みを心の中で入れつつも、
花井はただ静かに頷いていた。
「オレん家この学校から近いからさ、
学校に、花井んトコにちょくちょく遊びに来てもいっかな?」
「……ああ、いいよ」
卒業で感じる寂しさは毎年のことだ。
毎年中学生になってからも何度となく遊びに来る子たちもいるが、
やがて段々と小学校からは足が遠のいていく。
彼らにとっての新しい世界に馴染んでいくと同時に、
思い出の中に小学校の教師もまた仕舞われていく。
たぶん田島もそうだろうと花井は思っていた。




田島が卒業したことで担任教師と児童という距離は更に広がり、
もう縮まることはないだろう。




田島のそばかすが浮いた笑顔も、元気な声も、
今まで在ったそれらはすべて日常ではなくなるんだと思うと、
花井は余計に寂しくなってしまった。












それはちょっとだけ、昔の話。





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2008/10/28 サイトUP





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