The last alphabet of tomorrow 3
「C」



『captain』










「委員長〜!」
放課後、渡り廊下の上から降ってきた数人の女子の声。
阿部は慌てて声のするほうを見上げた。
ランドセルを背負って、野球用の肩から提げるビニールバッグを抱えて、
決められている校舎脇の一角に着替えに行く途中だった。
記憶の中に知ってる顔はなく、たぶん同じクラスじゃないようだ。
もちろん同じ図書委員ではなかった。
図書委員長になってまだ数日で、声を掛けられる理由がなく戸惑っていると、
後ろで「は〜い♪」と気の抜けた声がした。
振り向くとクラスは違うが同じチームで野球をやっている水谷と栄口がいた。
水谷が女子達を仰ぎ見つつにこにこと笑って手を振っている。
横で栄口が水谷のその様子を見て苦笑いをしていた。
「……なあ水谷、お前、委員長?」
「おや阿部。そう、委員長だよオレ」
「ドコの」
「ああ、スクールランチ委員会」



スクールランチ委員会とは、所謂給食委員会のことで
毎日の給食の使った素材や栄養バランスを掲示板に書き込んだり、
献立の内容やめあてなどを給食時間に放送したりしている。
阿部から見ていつもほわんほわんと緩く生きているような水谷が、
自分と同じ委員長だということに驚いた。
委員長に成り行きでなってしまった阿部とは違い、
なりたかった理由でもあったのだろうか。
「水谷お前……立候補したのか?」
「してないよ〜。気がついたらなっちゃってた」
「ああ?なんだそれ、イミ分かんねーよ!」
「ジャンケンは最後勝ったんだけどさあ」
「余計分かんねーぞ」
「え〜っ?」
並んでがーがー言い出したところで、
その後ろを歩いていた栄口が話に割り込んできた。
「ちょ、ちょっと待って阿部、少し説明させて」
そういえば栄口も第2希望の給食委員会に入っていた。




3人並んで歩きつつ、あんまり委員長が決まらないもんでさ、と栄口は話し出した。
「……泉せんせがとんでもなくキレちゃって」
「栄養士の?」
司書である三橋が図書委員会にに参加してるのと同じく、
スクールランチ委員会にも栄養士の泉が深く係わっている。
「『誰もなり手がないんなら委員長はジャンケンで決めろ!』って怒鳴って。
だからみんなでジャンケンして一番負けたヤツが委員長ってことになったんだけど」
泉先生男気がありすぎだろ、と阿部は唸る。
……だけど、と栄口が言うように。
水谷は最後のジャンケンを「勝った」とか言ってなかったか。
「なんで1番負けたわけじゃねーのに委員長になってんだ」
「な、なんで、かなあ?」
首を傾げた水谷の頭を、バカっ、と栄口が小さく言って軽くはたく。
「そんなん、負けたヤツに逃げられたに決まってんだろ」
めずらしく怒った表情を見せていた栄口だったが、
おかげで勢い余ってオレも副委員長になってしまったんだよと、
すぐに苦笑いしていた。




「でもオレ、頑張るよ。野球で言えば主将になったと同じだもんなあ」
頭を擦りつつ、水谷は笑う。
委員長になった経緯はどうであれ、
与えられた役割は十二分にこなしたいと阿部も思う。
少人数では到底回すことができないくらいなこの学校の、あの大きな図書館で。
他の委員と共に、少しでも三橋の力になりたかった。




肌に触れる風の温かさが、
阿部に春の訪れを実感させていた。




春が来て、そして。



6年生になるのだ。










それはちょっとだけ、昔の話。





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2008/10/28 サイトUP





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