The last alphabet of tomorrow 24
「X」



『Xmas』
(2010クリスマス記念)





水谷は少しだけヘコんでいた。
クリスマスイブは終業式で、その午後のことだった。
栄口の家に足取りも重く、それでも向かう。



クリスマスには栄口と2人でささやかなパーティをしようと思っていたのに、
主役であるはずの(自分にとっては)ケーキが予算の都合で、
小さなコンビニケーキしか買えなかった。
ホールのケーキの値段があんなに高いなんて知らなかった。
もちろん大きなチキンも、
甘いけどたくさんは飲めないピンクのシャンメリーさえも無い。
自分はまだ小学生で一人では何にもできないのだと、こんな時は思い知らされる。
水谷が栄口へのプレゼントとして持ってきた小さな2つ入りにコンビニケーキと、
栄口が用意していた2Lペットボトルのサイダーだけの、
小さな小さなパーティとなった。
来年は中学生になって、栄口とは違う学校なので、
こうやって一緒にいることはないかもしれないと、そう思うと水谷は余計に悲しくなる。



「ごめんっ!」
「家に来て、開口一番謝られても困るよ」
玄関口で栄口は苦笑いしている。
「どうぞ、上がって」
「ケーキで手一杯で、他にプレゼントも何も準備出来なくて」
「ケーキだけで十分だよ、食べるのが楽しみだ。もちろん白いヤツだよね」
「うん、もっちろん!
赤くてキレイだけど苺はいらないから、生クリーム増量だといいのに」
「あ、それはオレも思う!」
ケーキを食べるのはは後のお楽しみにとっておいて、栄口の部屋でまずは紅茶を楽しみつつ、
トレイに置いてあるケーキを見ながら暫しケーキ談義に花を咲かせていた。
視界にたくさんのケーキが入り込んでくる時期である。
あの店のあのケーキが食べてみたいと、2人の会話は尽きない。



「……ねえ、水谷」
「んー?」
「プレゼントと言えばさあ、」
「え、なんかくれんの?」
期待しちゃうよ?と返しつつ、水谷の鼓動は跳ねる。
「うーん、……ちょっと目ぇ瞑って」
「?」
言われるままに目を瞑る。
ちゃんと正座なんかしたりする。
ガサガサと音がするのを鼓膜が聞き取り、
うれしさと期待でどきどきが止まらなくなっている。
そんな水谷の頭には何かが被せられた。
驚いて目を開けてしまった。
「あ、ちょ、水谷、早っ!!」
そして視界のほとんどは白いもので埋めつくされようとしている。
手を上げて被せられた物に触る。
「……サンタ帽子……?」
「おヒゲもあるよ。オレからのクリスマスプレゼント、100均のだけどね」
何故サンタグッズなのかは分からないけれど、純粋にうれしかった。
「これはもしかして、オレにサンタになれということ?」
「うん、そう」
満面の笑顔の意味が、今一水谷にはよく分かっていない。
よろしければ種明かしをして欲しいと思う。
「何で?」
「水谷は、サンタクロースになればいい」
「……栄口?」
気がつくとヒゲもしっかりつけられてしまった。
栄口は更にうれしそうな表情をして、目の前にいる。
「サンタクロースになって、毎年、
水谷はオレのところまでケーキのプレゼント持ってくればいいよ」
「え、あ、え?」
『毎年』という単語が水谷の頭の中をぐるぐると回っている。
「オレはサンタ信じてるから。本物はフィンランドにいるだろうけど、
オレには水谷サンタの方が大事だから。
来年も絶対、オレのトコに来るんだよ?分かった?」
ここまで来てやっと、
この先離れてしまう不安をしっかりと栄口には見透かされていたことに気付く。




来年が、あるのだ。
卒業で終わりではなく、たとえ学校が離れてしまってもその先があるのだ。
信じていいのだと、きっと栄口は言っている。
うれしかった。
うれしくてうれしくてたまらなかった。




「満開の桜の木の下に、サンタがいたら変かなあ?」
噴き出しそうになるのを堪えつつも水谷は問うてみる。
「……っ、お前……!」
栄口の眉が歪むのを見逃さない。
「真夏にサンタが現れてもいいのかなあ?」
「オレは平気、だけど。笑われるのはお前だよ」
「そんなの構うもんか」
栄口にこの先も会えるのならと、
それは声には出さずに胸の中でだけの言葉にした。
「さ、ケーキ食べよ!」
「そうだね」
「これ、取っていい?このままじゃ食べれない!」
「まだダーメ!」
栄口は笑いつつ、ケーキに被せられたプラスティックのフタを外している。
慌てて水谷もサイダーを注ぎ分ける。






さあ、パーティを始めよう。
クリスマスがやってきた。


大事な人と、今年もその先も、
一緒にクリスマスを過ごすことができますように。







未来はまだ十分には見えてこないけれど、
幸せなクリスマスをこれからも迎えることができますようにと願うのだ。











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OPQRSTUVWXYZ

メリークリスマス!!

よいクリスマスをお過ごしください。



2010/12/24 サイトUP





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