The last alphabet of tomorrow 1
「A」



『aid』










季節は春待ちの、
まだ寒さが十分に残る2月末のことだった。




小学5年生のオレ、阿部は図書委員だった。
西浦小学校の委員会活動は5年生の1月から6年生の2月まで。
2ヶ月ほどを6年生に仕事を教わりながら過ごし、
3月からは5年生だけで委員の仕事をこなしていく。




思い返せば冬を迎えようとしたのある日に、
委員会希望調査書に書いた『図書委員会』の文字は第3希望の欄だった。
第3希望辺りはどこでもよかった状態で、
同じ少年野球をやっている栄口が図書委員会を選んでいたので、
それに倣っただけだった。
ところが担任の先生が「阿部はもう少し本に触れたほうがいいだろう」と、
気がついたら図書委員会に放り込まれてたというわけだ。
オレはほとんど本を読まない。
野球の雑誌などは自分でも買って隅々まで目を通すが、
読み物に関してはさっぱり興味がなかった。
学校図書館で借りるのは学習漫画の野球あたりやスポーツ系の、
似たような本を何度も読み返すくらいだった。
図書の先生はオレ達が図書委員になると同時期である1月の、
年度としては大変中途半端な時期に新しくやってきた。
前の先生は産休で辞めて代わりに来ることになったらしい。
男性の司書というのはかなり珍しく、それもちょっと変わった先生だった。




「お前ら、走んなっつってっだろがっ!!」
ドタバタと図書館内を走って横断していく3年生の男子グループに向かって、
オレは怒鳴りつける。
鬼ごっこの途中らしくそのまま退室して逃げていった。
あいつら、もう戻ってくんな。
当番である木曜日、オレは返却された本を棚に戻す作業をしていた。
声が少しでかかったらしく、読書をしていた20人ほどの児童は驚いて固まっている。
「あ、阿部君っ、あの」
カウンターから色素の薄めな髪をふわんふわんと揺らして、
学校図書館司書の三橋先生が駆けて来る。
「三橋先生」
「あ、あの、も少し落ち着いて」
「落ち着いて……じゃ、ねーよ。
ほんとは先生が怒んなきゃいけない場面じゃねーのか、今のは!」
「ご、ごめんな、さいっ」
新しく西浦小学校にやってきた三橋先生は、
何故かいつもオドオドビクビクしている先生だった。
つか小学生を怖がってちゃ話にならんだろ。
特にオレは、他の連中より更に増して怖がられているような気がするんだが。





まだ仕事に慣れないことも多いだろうから、
いろいろと手助けしたいと思うのに。




せめてオレの前では少しくらい笑ってくんねーかなと、
今にも泣き出しそうな三橋先生の顔を見ながらオレは思った。












それはちょっとだけ、昔の話。





ABCDEFGHIJKLMN
OPQRSTUVWXYZ





2008/9/7 サイトUP





back