The last alphabet of tomorrow 16
「P」



『pattern』
(2010年12月19日浜田お誕生日記念SS)
「N(name)」の続き










泣いてしまうのを悔しく思う泉だった。
事の起こりは自分の仕事のミスからで、
紛れもない事実であり、そのため現実は何も変えられない。
抱えて糧にしていくしかないのも分かっている。



だが思い出したことがあり、不意に涙が溢れてしまった。



あれはいつのことだったか。
まだ小学校低学年の浜田が、泉の頭をずっと撫でていたことがある。
小さな手。
まだ小さな手だった。
泉を見つめる浜田の眼差しの真摯さは今も変わらずに、
普段の朗らかな笑みや元気な態度、
程良い気楽さの中に混じってそれを無くさずにいる。



似たようなパターンは今までにも何度もあった。
泉が吐き出し、浜田がどんと受け止めてくれる状況は何故か多く、
これじゃどっちが大人なのか分かりゃしないと泉にはそれが歯がゆい。
そして自分には弱みを見せることの出来る相手が浜田しかいないことに気付く。
身体も心も大きくなって日々成長していく浜田が、
自分から離れていってしまうようでやけに寂しく感じてしまうのは、
浜田が掛け替えのない存在であるからに他ならない。
だからこそ、逆に向こうの弱いところも見せて欲しいと思うし、
受け止めてあげたいのだ。
笑顔で場を流されてしまうのは辛い。
小学生の彼にそんな大人のような反応を返されてしまうのは切ないのだ。



泣いてしまったら、随分と気持ちが楽になった。
空腹を感じつつ、
いい加減抱き止められている現状をどうにかしたいと泉は思う。
「浜田、離せよ」
「ダメ」
「おめー、ザケンナ!」
浜田の腕の中でばたばたともがくが、
力では最早敵わないのか腕の中から出られない。
観念して動くのを止めたら、向こうが満足したのかやっと開放された。
力が抜けて、ぺたりと床に座り込む。
見上げた浜田は笑顔で。
それは満面の。
年相応の笑顔で泉は怒るより先にうれしくなる。
でも浜田に悟られるのは悔しくて、泉は複雑な気持ちを抱えてしまった。
「さ、メシ食うぞ!」
打ち消すように大きな声を出して、立ち上がり部屋を出ようとした。
出ようとして、繋がれた手に気付いた。
見つめ合う。
大きくなった手の感触に、過ぎてしまった時間を思う。
「そこで何で手を繋ぐ?」
「孝介が迷子になっから」
鼓膜を通った浜田の声の内容を吟味する以前に、
なんで笑ってるんだ、と文句を言いたい気分になる。
「誰が何処でどう迷子になるんだ。ここはオレん家だ」
「気持ちが迷子にならないように、傍にいるよ」
瞬間、感じた頬の熱さに、投げつける言葉を見失いそのまま息を飲む。
赤くなった顔を見られたくなくて、
浜田の手を引っ張りつつ、泉は先に歩き出した。






これまでも、そしてこれからもお決まりのパターンを繰り返しつつ、
2人の関係は続いてきたし、これからも続いていくのだろう。



それも悪くない、と泉は思った。









ABCDEFGHIJKLMN
OPQRSTUVWXYZ


浜田、お誕生日おめでとう!




2010/12/19 UP





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