寺脇さん Side
気が付けば、目で追ってしまう自分がいた。
『さみしいよ。』
いくら、中学校の教員だからといって、自分まで中学生のようになる必要もないのに。意図のない視線が交わるだけで、満足をしていた15の恋。たわいのない会話に浮き足立ち、偶然を装い必然を求めて歩いた。存在を思うだけで、幸せになり、好きだという言葉を学ぶこともなく。見送ることで終わり、そして終わってようやくそれが恋だと気が付いた。 そんなことを、今更。 「先生。」 「お、どした、巣山。」 手には卒業証書。胸元には赤い花。わかってはいたけれど、これで巣山は卒業なのだと、再認識させる姿だった。もう、この坊主頭を見ることも触ることもないのか。最後に触りたいなぁ、触らせてくれないかなぁ。 「センセ、オレ、今日卒業しました。」 「知ってるよ。おめでとう。」 そうさお前はオレを置いて卒業してしまうのさ。置いていくなんて、教員のオレが思うのはお門違いの言葉だけれど、それでも、オレはもうお前を見ることもできなくなってしまうのだから。 いいさ、見るだけで満足してきたんだ。すぐにまた、なにもなかったことにできるはずさ。27のオレにようやく戻れる。少しの時間と涙は必要そうだけれど。 「先生、オレ先生のこと好きでした。」 「おー、そーかそーか。ありがとなー。」 なんだこいつは。わざわざそんなことを言いにきてくれたのか。そんなにオレに懐いてくれたなんて知らなかったよ。まぁそりゃそうか。恥ずかしげもなく好意を顕にするタイプじゃないもんな。せんせーせんせーと寄ってきて甘える奴はいっぱいいたけれど、そういう奴は誰にでも甘えるから。 だから嬉しいよ。人を厭うわけではないけれど、誰か特定の人を思うことが少ないであろうお前がオレのことを気に入ってくれいたなんて。最後にそれを知ることができて、嬉しいよ。本当に嬉しい。 うれしいけど、さみしいよ、すやま。 今夜の酒は思ったよりも旨くなりそうだ。必要な時間と涙の量は増えちゃうだろうけど。でも大丈夫、大丈夫。今はこんなにも淋しくて淋しくて泣きそうだけれど、15の恋が甘酸っぱい思い出になったように、お前のこともいい思い出にすることはできるはずだ。いつか、きっと。 「ちがう、そーじゃなくて。」 「は??」 「オレは、これからもアンタに見ててほしくて。」 そこでようやく、オレは気がついた。巣山の声はどこか上ずっていて、震えていることに。巣山の耳が、赤く染まっていることに。 そしてオレの口はポカンと開いたまま塞がらなった。 「オレ、高校でも野球やりますから。絶対レギュラーになるから、見にきてください。」 そう、強く言い切って巣山は去っていった。残されたオレは巣山の言葉を頭の中で繰り返し、自分の日本語読解力をおおいに疑い、そしてこれは自分の妄想なんじゃないかとほっぺたを思い切りつねってみた。 「…痛い…。」 どうやら夢でも妄想でも勘違いでもないとわかった時、終わったと思っていた恋が、また始まった。 思い出になんか、しなくていいの、巣山。 |
寺脇さんと2人で楽しく作った設定からできたお話を
プレゼントとしていただいてしまいました。
最初が巣水…ふふふ♪(わたしも人のことは言えない)
そして、ミズサカとハナタジをわくわく待ってていいですか?
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寺脇さんの素敵サイト『ソラタカク』
2006/5/22 UP