月篠あおい Side





今日が最初のいろは 6
「へ」



『平然』










泉が怒っても、悪態をいくらついても
浜田はいつも平然としていた。
何せ年は10以上も離れているのだ。
大人の余裕ってヤツかよと、泉は余計イライラする。
何を言ってもどうせ本気にはとってくれない。




泉は確かにまだまだ15の子どもで、
子どもではあったけれど、浜田のことが好きだった。
好きだという気持ちに、子どもも大人もないと思っていた。




「そのしたり顔にムカツク。スゲームカツク!」
「何?突然どーしたの?泉!」
浜田の家で、手作りパウンドケーキをご馳走になっていた。
いろいろ考えすぎてて、もう味がよくわからなくなっていながらも
それでも食べてて、美味しく淹れてもらった紅茶も飲んで、
でもよしよしと撫でられた頭に「やっぱり子ども扱いかよ」と
どんどこ悲しくなった泉だった。
「もー面倒くさくなった」
床に音をたてて、立ち上がる。
「え、ちょっと…」
「こんなヌルい関係ぶっ壊してもいいかな?」
「は、反抗期なのかな?いずみーっ」
ばちこんっと、浜田の頭をぶったたいて、
浜田のシャツの襟をぐいっと掴む。
顔と顔を近づけた。




「年の差でっかく聳え立ってんのに、それだけでも大変なのに、
先生なんかになっちまうし、まして西浦くるし。もう限界」
ありったけの想いをこめて、キスをする。




その平然とした態度としたり顔を崩せるんなら、
それだけでもキスした価値がある。
本音の言葉も、ついでに投げつけて。
「好きだよ、先生」




壊れるんなら、さっさと壊れてしまえ。














いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせすん






2006/7/5 UP





back