月篠あおい Side





今日が最初のいろは 47
「す」



『素直』







卒業式も無事に終わり、
校門前、教職員が並ぶその見送りの列の中に水谷はいた。
女子が何人か周りを取り囲んでいるけれども、
それはいつものことで、でもこちらは最後のチャンスなので怯まない。
「水谷先生!」
声を掛けて巣山は近付く。
手ぶらなのもなんだから、卒業証書が入った筒だけは持っている。
紅白餅も他の荷物も他の母親との話に熱中している親に押し付けていた。
「おお、巣山!」
伸び上がりこちらに向かって大きく手を振る。
フミキ、またねーと女子達は気を利かせてくれたのかその場を離れた。



「卒業おめでとう!」
満面の笑顔で手を差し出してくる。
相変わらず先生らしくないほわほわとした笑顔だなと思いつつ握手を交わした。
「ありがとう、先生」
「巣山はさ、もちろん高校に入っても野球続けるんだろ?」
「そのつもり、です」
「甲子園、行けたらいいなー。そん時はオレ見に行っちゃいそうだ!
巣山を全力で応援してるかんな!頑張れよ!」
そう言いつつ巣山の背中をばんばんと叩いた。
その勢いに巣山は苦笑してしまう。



巣山が受験した学校の野球部は決して強いところではなかったのだが、
水谷にそんな風に言われると、素直に甲子園を目指して頑張れそうな気がしてくる。



いつか本当に甲子園に行って水谷先生に現地で応援してもらう、
そんな日が来ればいいなと巣山はこのめでたき日、
輝ける未来に思いを馳せていた。















いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせすん












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2008/7/8 UP