月篠あおい Side





今日が最初のいろは 42
「し」



『始末』






細工は流々。












やけに騒がしいなと思いつつ、阿部が校門の立ち当番から体育館に戻ると
舞台に台風はすでに来て去ってしまっていた後だった。
「ステージジャック!?……た、田島ーっ!!」
それが教師の所業かと敬称すら取っ払った文化発表会真っ最中の季節は秋。
昨年度1年間、田島には散々振り回された記憶があった。



「田島はいるかーっ」
呼びながら生徒会室のドアを開けたら生徒会長の花井が爆笑していた。
後片付けも大体終えた頃で、校内もいつもの静けさを取り戻していた。
「田島先生を探してるんですか?まだここには来てないですよ。
阿部先生、まるで『悪い子はいねがー』のなまはげみたいだなあ……」
あちこち捜し歩いた。常駐先のここにもいないのか、と息を吐く。
「例えがそれかよ。つか『泣く子』とかだろが。なあ花井」
「はい」
「もしかして……お前何か知ってたのか?」
「ステージジャックやらかすなんて知りませんでしたよ」
「んー……、ここにはいずれ顔を出すだろう。田島に伝言を頼めるか」
「了解です。伝言だけでいいんですか?随分と優しくなられましたね」
「悪かったなっ」
「褒めてるんですよ」
まるで大人のような口ぶりで花井は言い、再度笑われる。
今日の夜は文化発表会の打ち上げもある。
いつまでも逃げられるとは思うなよ、田島。
ここでがっつり注意しておかなきゃ、調子に乗った来年が怖い。
始末に負えなくなる前に釘を刺しておきたかった。





田島は隠れてでもいるのか見つからず、職員室に戻ろうと管理棟に入ると、
阿部は保健室の前にそこの住人である篠岡の姿を見つけた。
呼び止めて近付く。
「篠岡先生今日の打ち上げ幹事だったよな。……細工ができっか?」
「ええっ」
「座席を決めるクジ、細工してもらって田島と隣同士になりたいんだが」
「え、あの、でも」
阿部は体当たりしそうな勢いで近付いて、篠岡は逃げの体勢になっている。
「何不正を持ちかけてるんですか阿部先生」
声に振り向くといつものにこにこ笑顔で西広が立っていた。
「いや早いうちにガツンと田島になあ、」
「手緩い」
そう言い切った西広の言葉と共に、
周囲の気温は一気に5度くらいは下がったような気がする。
「篠岡先生、これから10分ほど時間いいですか?阿部先生も。
今相談室空いてますよね」
「いいです、けど」
「……何か考えてんのか?」
「篠岡先生、今日のは三役に許可もらって『あれ』やるんでしょう?
細工するんならぜひそこで」
「あ」
篠岡は驚きの声を出す。
何を言っているのか分からず訝しげな阿部を目の前に、西広は笑顔で続けた。



「『細工は流々、仕上げを御覧じろ』ってね」






(『ゑ(延々)』に続く)









いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせすん












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2008/3/16 UP