月篠あおい Side
今日が最初のいろは 2
「ろ」
『朗朗』
生徒会室には、生徒会長の花井がいた。
「好き勝手にやっていいって、そういうことじゃないすよね?」
思わず、目の前で窓の外を見ている相手にそう問うた。
生徒会顧問である『タジくん』こと田島がいて。
突然に文化発表会、生徒会でやりたいようにやっていいよ、と
そんなことを言いだしたのだ。
「でも先生も知ってんだろ?
高校みたいに文化祭じゃなくて、文化発表会でしかない。
いろいろ制約が多くて、前年度もたいしたことできてないんだ」
「…知ってるよ」
「なら、なんでそう言うんすか」
「あちーなー」
夏だった。
セミの声が生徒会室にもわんわん響いている。
「田島先生」
「オレがそうしたいんだよ」
「え」
「生徒のやることを見守るってのも、先生の仕事じゃねーのかよ」
田島の発した声は、言葉は、花井の心に朗朗と響いた。
何かの呪文のように、歌のように。
教師になってまだ2年目の、
見た目には自分たちとたいして変わらない風貌の田島だった。
普段は言ってることもやってることも、まだまだ子どものようで。
花井から見ると、いろいろと可愛くて。
でもちゃんと教師だったのだ。
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせすん
2006/7/5 UP