月篠あおい Side





今日が最初のいろは 25
「ゐ」



『入口』










昼休みがもう終わろうとしているのに、三橋の姿が見当たらない。
次は体育なのに。
体操服に着替えるのはちょっと待って、
オレ、泉は三橋を探しに出かけた。
阿部っちに用事があると言ってたので、職員室のある管理棟に向かう。





「泉君っ」
「三橋いた!」
三橋が慌てて駆けてくるのが見えた。
「ご、ごめんね」
「教室行って着替えないと、行くぞ」
「うん」
廊下は走っちゃいけません、なんてことは分かってるんだが
この状況でやってられっか!と2人駆け出した。




だが、教室のドアが開かない。
週番がもうみんなグラウンドに出たのだろうとカギをかけてったようだ。
呆然としてるところに容赦なく予鈴が鳴った。
「や、やべー…」
職員室のカギ掛けから、事情を話してカギ取って来るかと
教室を離れようとしたら、三橋に声を掛けられた。
「い、泉君!」
「どうした?」
「窓、ひとつカギ、開いてる!ここから、入れるよ!」
誰かが閉め忘れたのだろう、廊下との腰高の仕切り窓を三橋がカラリと開けた。
「ちょっと待った。そこは入口じゃないだろう!」
まだ予鈴が鳴ったばかりで、人通りもある。
ヤな注目を浴びることは確実だが…。
だが時間が無い。背に腹は変えられない。




レッツ侵入フロム窓★☆★




三橋と2人、ダッシュで着替えて、再び窓を越えた。
「よし、誰も通ってないな!」
やったぜ、と思いつつ、三橋を見て、
固まってる三橋のその視線の先を辿る。




そこには、苦笑いをしている2年の栄口先生の姿があった。




一瞬緊張が走るが、どうやらこちらの事情を察してもらったらしく
何も言わず笑顔で手を振って去っていった。
……は、恥ずかしーっ!
「よかった、ね。栄口、先生で」
確かに。これが阿部っちだったら…と考えるとちょっと怖い。
優しいと評判の栄口先生で良かったと
オレは鳴りだした本鈴に駆け出しながらも、そんなことを思っていた。















いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせすん




2007/6/17 UP




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