月篠あおい Side





今日が最初のいろは 22
「ら」



『来年』

(2006クリスマス記念)






それはクリスマスがもう終わろうとしている
12月25日の陽も落ちた夕刻のことだった。
学校はもう冬休みに入ってはいるが、普通に先生方は出勤で
もちろん部活も平常通りにあっていた。
ただやはり冬時間のこの時期は、
早めに生徒たちを下校させることになっている。




「突然になんでしょう?水谷先生」
オレ、栄口は平静を装い、まずはそう訊いてみた。
本当はすごくすごくどきどきしている。
普段この時間になったらほとんど誰も通らない、
特別教室棟の隅で水谷先生に後ろから抱き締められている。
「メリークリスマス」
「ああ、そうですね」
「メリークリスマス」
「…水谷せんせ?」
「お願い聞いて」
「オレはサンタじゃないですよ。
でもクリスマスだし、ご飯くらいは食べに行きましょうか?」
「来年も、ずっと一緒にいて」
「……」
「来年も」
「年明けたらすぐまた会えるじゃないですか」
「そういう意味で言ってない」




1年が過ぎるのは速い。
春も夏も秋もそして冬もあっという間にやってきて
すぐにまた春がやってくるのだ。
もしかすると奇跡はおきて、
春が過ぎても一緒にいれるかもしれない。
それとも今度こそ異動の年で、離れてしまうかもしれない。




「…怖いよ」
そう呟いて、水谷先生は腕の力をますます強くしていって。
オレは何も言えなくなって、されるがままになっていた。
昨年からずっと抱えていた水谷先生の不安の大きさが
やっと自分にも実感できるようになっていた。
クリスマスプレゼントに、誰か、
もう1年分2人一緒に過ごせる時間をくれないだろうか。








この1年の間に、
こんなにも好きになっていたのだ。

















いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせすん






2006/12/24 UP





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