月篠あおい Side





今日が最初のいろは 11
「る」



『涙腺』

(『へ(平然)』の続き)








終わらせるつもりで、オレ、泉は浜田にキスした。
好きだと言った。本音だった。





「泉のこと、そういう目で見たことがなかったな…」
浜田は夜の時間に言葉をそれだけ落とす。




ああ、そうだろ。そうだろうよ。
そんなことわかってたよ。



だめだってわかってた。
最初から。そんなん最初っから。





でももしも。
もしももしも。







浜田があんなに年上でも先生でもなくて、
オレも中学生じゃなくて…そうだな。
やっぱり幼馴染でオレも高校生で、
浜田とは同じクラスだったりして
そうしたらまだ
この想いも受け止めてもらうことができるのかな?
どうなのかな?



そんな状況だったら、
オレはオレに頑張れって言うのにな。







「帰る」
オレは立ち上がった。
部屋のドアまでの距離は、いつもより遠い。
「泉」
名まえなんか呼ぶなよ、浜田。
もう、終わりだよ。
このところ緩くなっている涙腺をオレは意識して。
泣かないように。






そうだ、泣かない。
壊したのはオレのほうだから。












いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせすん






2006/8/18 UP





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