あんまり悲しかったので
たくさん涙を流した


あんまりたくさん泣いてしまったので
両の眼球を落としてしまった
ころころと転がって
持ち物だった青い瞳はどこかにいってしまった


黒い空洞がふたつ
ぽっかりと顔に





どうしよう
あなたの姿が見えなくなった









宝石はいらない
(2010/11/24 サイト開設5周年&姉崎まもりお誕生日記念SS)










とても悲しい夢を見て、わたし、姉崎まもりは目を覚まし、
飛び上がるようにベッドから身体を起こした。



世界はまだ暗い、時計を見ると真夜中と呼べる時間だった。
部屋にはまだ十分に夜闇が満ちていて、
そんな中ベッド傍のスタンドライトだけが点いている。
ヒル魔くんが横でヘッドボードに背を預け、
ノートPCのキーボードを叩いている。
カチカチとした単調な音に、辺りを見回し息を吐く余裕が出てきた。
エアコンがついていて、真冬なのにほわりと暖かい。
ヒル魔くんの部屋で、ヒル魔くんのベッド。
いくつもの部屋を持っているヒル魔くんだけど、
ここは大学のすぐ近くで、
明日の朝が早いため、飲み会の後、そのまま転がり込んだのだった。
あんな夢を見たのは些か飲み過ぎたお酒のせいなのだろうか。



「……どうした?」
「夢を、見たの」
「へぇ」
抑揚の無い声が返る。
どうしていいのか分からなくて黙っていると、
「どんな夢なんだ?」と続きを促してきた。
「わたしの両眼が落ちて無くなって、ヒル魔くんの姿が見えなくなる夢。
でもヒル魔くんはそこに居て、『宝石はここにある』って言うんだけど」
「宝石?なかなか面白い夢じゃねぇか」
「眼球の比喩だとは思うんだけど、よくはわからないの」
聞いてもらえて気持ちは少し楽になった。
パタンと音がした。
ノートPCをヒル魔くんが閉じたようだ。
頑張って眠りに戻ろうと思い、まずは毛布をかき寄せる。
突然にヒル魔くんの顔が近付いてきて、わたしは動けなくなる。
わたしの目を見て彼は言う。
「こんな宝石(いし)、無くってもいいじゃねーか」
「よくないわよ。目が無くなったらヒル魔くんの顔も見えないわ」
「目なんか無くても、耳や鼻、手も口もある」
「……耳って、」
「目、閉じてみろ」
ヒル魔くんの顔を一瞬見遣り、わたしは瞼を閉じた。




耳元で、「姉崎」と囁くヒル魔くんの声。
近付きすぎた距離、彼の匂いは男の人の匂い。
黙ってわたしの手を取って、そして触れるだけの口付けをされる。


姿は見えなくても、
全身で彼の存在を感じることができていると思うと、
更に気持ちが落ち着いていく。



「さっさと寝ろ、朝起きれねーぞ」
「そうね、おやすみなさい」
ベッドに横になり瞼を閉じても、
ヒル魔くんの気配は十分に感じられて、
わたしは穏やかな心持ちのまま、再度眠りに落ちた。







夢でわたしは、
「泣いているだけの宝石はいらない」と言っていたように思う。



両眼に例えた宝石はいらないのだろう、きっと。
無くしても生きていけるのだろう。





ヒル魔くんさえ傍に居れば。








END










まもちゃん、お誕生日おめでとう!
そして「Maria」も5周年ですか?ですよね?
あまり更新できてませんが、
のんびり続けていけるのが幸せです。



設定的に大学編ですね。
仲良しさんのようでうれしいです。


実は冒頭の詩が突然に降ってきまして、
(※月篠はもともと詩書きの人間です。
メインサイトはオリジナルの詩サイトです)
それが切欠となり、突発で出来たSSです。
最初、詩が本編ほどに長くて、
(ヒル魔くんが青い宝石を持って立っていた……、
と続いていくのですが、そんなのが全部詩になってました)
中に「宝石はいらない」というフレーズがあり、
タイトルはここから取りました。

SSになった時に、
詩の後半をがっつり削って(笑)しまいました。
後悔はしていません。


今年もまもちゃんのお誕生日をお祝いできて、
うれしかった。
読んでくださってありがとうございました。





2010/11/24 UP



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