春を待つ風

(2009/11/24 サイト開設4周年&姉崎まもりお誕生日記念SS)









そろそろ春一番の到来だろうか。
風は世界を揺らすように吹いていて、
まもりの肩まで伸びた長い髪をも揺らして通り抜けていった。
世界が春の季節に向かい、光を纏い鮮やかに変化していく。
そんな春待ちの季節がまもりは好きだった。




「合格発表を見に、セナがもうすぐ日本に帰って来るわね」
「そっちに連絡あったのか」
「うん、メールで」
最京大からの帰り道、駅までのその道のりを、
まもりとヒル魔は暖かさを含み始めた風を肌で感じつつ歩いていた。
「……もしかしなくても何か仕込んでるでしょ、ヒル魔くん」
「炎馬は誰でも合格できっからな、すーぐデビュー戦だ。
どのくらいノートルダムで揉まれて来たのか、そのデータは入れねェとな」
「武蔵くんの工務店にこっそり加工させてる車って、そのための?」
「ケケケ、学長が話の分かる奴でなァ」
「ああ、やっぱり……」
裏金交じりの収支決算をまとめるのに、更に頭を使いそうだ。
溜息を吐いたまもりの様子を見て、
ヒル魔は爆笑しつつ無糖ガムを口に放り込んだ。
「……テメーもいろいろと把握してんな」
「あなたとの付き合いも長いから、っていうか、
マネージャーとしてもそのくらいは把握させてほしいわ」
最京大に入学してからも、アメフトチーム「最京大WIZARDS」の
主務兼マネージャーとしてまもりは忙しい日々を送っている。
「なあ糞マネ」
気にならなくなるくらいにはなってしまった、
その呼び名もずっと変わらないままで。
急にヒル魔は立ち止まり、だがまもりの顔は見ずに問うてきた。
「もうあの糞チビはここにはいないのに、
テメーは何でまだアメフトに係わっているんだ?」




即答しなかったのはその質問の意図を図ろうとしたためだった。
頬にかかる髪をかき上げて、ヒル魔の顔を間近で見つめつつまもりは答える。
「あら、理由は簡単よ」
「……」
「アメフトは面白いもの」
ヒル魔が呆けたような表情をしたのをまもりは見逃さない。
「わたしは実際にヒル魔くんたちのようにプレイをするわけではないけれど、
アメフトの魅力は十分に分かってると思うわ。
仲間であって、同士だとも思っているけど……あなたは違うの?」
予測していたはずの悪魔の笑みはそこにはなく、
まもりの前には照れたように笑うヒル魔の姿があった。
一瞬だけではあったが、初めて見る表情に戸惑いつつもうれしくなってしまう。
すぐに口角は上がり、いつもの悪魔に変貌してはいったのだが。
「テメーはなかなか面白れェこと言うじゃねえか」
「あなたは質問にちゃんと答えてませんけど?」
まもりの突っ込みには答えることはなく、
ヒル魔はまもりの手首を掴むとそのまま引っ張って歩き出した。
「ちょ、ちょっと、ヒル魔くんっ」
「糞ジジィのとっから車が来たら、テメーを一番に上に乗せてやる」
「ええ?上って、それって何処よ!」
「ケケケ」
「もう、ヒル魔くん!」
「今年の大学リーグはあの年のメンバー揃った分楽しいぞ。
テメーも十分に覚悟しやがれ」
「もちろんよ」
あの年。
泥門の皆で夢のクリスマスボウルに行った年に1年だったメンバーが、
それぞれ大学に入学し大学リーグに参戦してくるだろう。
社会人チームである「武蔵工BABELS」も更に力を増している。




春一番はまだ春を待つ風で。
これから春二番春三番の風を経て、
季節は冬から春に緩やかに変貌を遂げていく。




高揚する気持ちを抱えながら、
まもりは今まさに吹いている春を待つ風に、
逸る心を委ねたいと思っていた。






END











まもちゃん、お誕生日おめでとう!

お誕生日話ではないのですが、
原作完結記念も兼ねて、大学編で書いてみました。




2009/11/24 UP



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