お誕生日、おめでとう。









おおきなおおきな

(2008/11/24 サイト開設3周年&姉崎まもりお誕生日記念SS)









おおきなおおきな、おおきな白いケーキの箱が、
泥門デビルバッツの部室、カジノテーブルの上に鎮座していた。









それはわたし、姉崎まもりの誕生日の、
11月24日の早朝のことだったので、期待はいつも以上にふくらんでいた。
3年になってマネージャーを辞めてからも、
何故か一番落ち着くので、毎朝部室で皆が朝練をしている間受験勉強をしている。
この箱はきっとそれを知ってる「彼」が置いているのだろう。




だってほら、箱の上に彼の好きな無糖のガムが一包だけ一緒に置いてある。
どこから入手したのだろうロケットベアーのシールも貼ってある。
そのシールは自分が持っていないものだ。
台の上にケーキを置き、それに蓋を被せるタイプの、
両手に抱えられるであろうかと心配になるくらいの大きさの箱だった。
箱には幅広のピンク色のリボンが掛けられていて、ああそれってらしくない。
まあ、テーブルの上にどかんと花束が乗っているよりはマシかもしれない。




「彼」と出逢って3年目の秋。
この穏やかな場所で一緒にいれる最後の秋。




問題はこの箱の中身が、予想通りおおきなケーキかどうかということ。
中身にはもしかしたらと心当たりがあるのだが。
ちょっと抱えようとしたら思ったより重くて驚いた。
ま、まさか追加で爆弾でも仕込んであるんじゃないだろうかと、
そこまではいかなくても蓋を取ったら花火くらいは上がってしまうのではなかろうかと、
変に邪推をしてしまうのはこれまでの経験からすれば、仕方のないことだった。
勝手に開けるのはよくないと思い、手が出せない。
うずうずと高揚する気分を持て余して、ヒル魔くんにメールをした。
「テメーのじゃねぇ」と返事があれば、落ち込んでしまうかもしれないけど。
栗田くんが来て、一緒に開けることができればまた楽しいなとわたしは思った。
リボンに指を恐る恐る伸ばし、思い留まる。
「開けてみりゃいいじぇねぇか」
「!!……ヒル魔くんっ」
振り向くと部室のドアが半分開いていて、
そこには携帯電話を持ったヒル魔くんがいた。




「こここここ、これ、わたし、の?」
「声が震えてるぞ糞マネ」
「もうマネじゃないわよ」
「じゃ、糞彼女だ」
「ヒル魔くん!!」
「彼女」だと一応は認識されていることに喜ぶべきなのか、
その物言いに文句をつけるべきなのかしばし悩んだ。
ヒル魔くんの口からはガム風船がふくらんでぱふんと割れた。
「それがテメーのじゃなけりゃ、誰のなんだ?
今日が誕生日でケーキの箱でテメーの好きなクマのシールが貼ってあるんだぞ?
他になんか悩むところがあんのか?」
「リ、リボンがピンクなのはどうしてなの?」
「……そこで質問がそれか……」
苦い顔をしつつ、ヒル魔くんは部室の中に入ってくる。
そしてリボンの端を持ってしゅるりと解いた。
わたしは促され箱の蓋を取った。




そこにはおおきなおおきなシュークリームがあった。




仄かに漂っていた大好きな匂いにある程度の予想はついていたのだが、
たったひとつだとは思わなかった。
気になったのは箱を抱えてみたときのその重さ。
まさか目一杯中身が詰まっているんじゃないでしょうね。
「これをわたし一人で食べろと言うの!?」
「言ってねぇぞ。テメーは大体分けたがるだろうが」
「あら、まあ、…そうよねえ。栗田くんの分込みな訳なのね」
「……最近いろいろとおばちゃんだな」
「なによそれ。ねえ、ちょっと破ってみてもいい?」
シュークリームを指差し、私は訊いた。
どのくらいカスタードクリームが詰まっているのか、どうしても確認したかった。
「好きにしろ、何度も言ってるがそれはテメーのだ」
そう言葉は投げられる。
『お誕生日おめでとう』の台詞はどの辺りで出現するのか、
それがちょっと楽しみでもあった。
まさか、プレゼントのおおきさで相殺されてないでしょうね。




シュークリームの皮を指先で慎重に破っていく。
天辺から、というのはさすがに躊躇われて、少し下方に指を掛けた。
中身のクリームを見て、わたしは唖然とした。
たっぷりとあるクリームの色は七色あった。
どうやってこれを分けろと言うのだろう。
しかもその中に何かが存在していた。
おおきなおおきなシュークリームの中、
たっぷりのクリームに埋もれるようにあったのは、
たったひとつ、3センチほどはあるだろう、おおきな七色の金平糖だった。
「テメーはいっつも空ばかり見ている」
「そうかしら……?」
「星は空にばかりあるんじゃねぇ」
「うん、なんてキレイな食べられるお星様なのかしらね。ありがとう。……あっ!」
長い指がわたしの目の前を横切り、金平糖を摘み上げた。
「ちょっと!食べないでよ!」
「食べねぇぞ、オレは待つだけだ。欲しかったら取りに来い」
「ええ?」
「ケケケ、誕生日オメデトウ」
金平糖を口に銜えてヒル魔くんが待つ。
何を待っているのかが分かって、頬が熱くなった。
「それはずるいわっ!」
「早くしねぇと朝練終わっていい加減誰か来るぞ」





辺りを見回し、ぐっと息を詰めて、わたしはヒル魔くんの傍まで歩み寄る。
金平糖を受け取るべく、顔を近付け目を閉じて唇を開いた。







金平糖の甘さのせいだろうか、
星を食べた後のお誕生日のキスもいつもより優しく甘く感じた。














彼と一緒に居れる、最後の秋だった。
アメフトで繋がった仲間達の集うこの大事な場所での、
彼との時間をわたしは大切にしたかった。
これからも、もっと。





卒業までに残された、それは僅かな時間だった。










END





まもちゃん、お誕生日おめでとう!




2008/11/24 UP



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