今ここにこうしていれることに
感謝をして。

わたしはとても幸せで。


神様神様
ありがとう。











祈る時間












夜も更けて、学校全体を静寂が支配していた。
今日は11月23日。
祭日でさすがに職員室の明かりも消えている。



この静寂の中、姉崎まもりはひとり
アメフト部室の前で光る星たちを見上げていた。
携帯電話でヒル魔に呼び出されて、こんな時間にここにいる。
肌を冷たくして通り過ぎていく風に身を縮めると
部室のドアを開けた。
鍵は開いている。だが、真っ暗だった。



「…ヒル魔くん?」
電気をつけようと中に入ると、急に後ろから抱き締められた。
「え、あ…」
まもりは驚くが、背後からのケケケという笑い声と
まわされた腕の覚えがある感触に、ヒル魔だとわかり安心する。
息をつく。
「どうして電気、つけないの」
「いいもんがある。ちょっと座ってろ」
ヒル魔はまもりから離れて部室の奥に移動する。
まもりは丸イスをなんとか探し当て、座った。
暗闇のなか、カチリと音がする。
テーブルの上で小さく灯りがついた。
それはキャンドルの灯りだった。
「きれい…」
傍にいるヒル魔の顔も見える。
もちろんいつもの彼で。
暗闇の中、小さな小さな灯りがひとつ。
揺れる灯りがひとつ。



「ヒル魔くん」
「何だ」
「どうしてわたしをここに呼び出したの?」
「気がついているだろーがいい加減」
「…あと数時間で、わたしのお誕生日だから」
「ご名答」
ヒル魔はそういうと、紙袋をひとつまもりに渡した。
大好きな雁屋のシュークリームだ。
「え…ヒル魔くん、これ買ったの?食べていいの?」
「ここで食うなり、持って帰るなり好きにしろ」
「うれしいな、ここで食べるわ。今コーヒー淹れるね」
「ああ、いいからテメーは座ってろ。俺が淹れてやる」
まもりはすごくうれしくなった。
これは思ったよりも素敵なバースディプレゼントだ。
あのヒル魔が、わたしのためにコーヒーを淹れてくれるというのだ。





神様
ありがとう。





少しばかり時間が経って、まもりの前には熱いコーヒーが置かれた。
笑顔でシュークリームにかぶりつく。
「ほんとにうれしそうな顔して食いやがるよな…」
「だってうれしいもの」
「お誕生日おめでとう」
「ありがとう。まだ23日だけど」
「テメー明日になるまでここにいる気か?」
「うん、わかってる」
「どうせなら1番最初がいいじゃねぇか」
「わかってるわ。ありがとう」
明日になれば両親からもアメフト部のみんなからも、
たくさんのお誕生日おめでとうの言葉を云ってもらえるだろう。
でも1番最初にまもりはヒル魔から祝いの言葉をもらいたかった。
それがかなって、幸せで。





両手を組んでまもりは祈った。
神様神様
ありがとう。





「何やってる」
「祈ってるの」
「…あぁ?」
「神様ありがとうって」
「ほんとにテメーの思考はわかんねぇな。もう慣れたけどな」
「幼稚園がミッション系だったの。今ある幸せに感謝しましょうって教わったわ」
「幸せなのか今?」
「うん」
「………そりゃ、よかったな」
ヒル魔も笑顔を見せる。






小さな小さな灯りの範囲に
2人はいて。



祈りには2種類ある。
願うための祈りと感謝の祈り。


今ある幸せへの感謝を祈る
その時間を持てることが
何よりもの幸せかもしれなかった。





昨年ではなく、来年でもなく
それは今年だけの。



HAPPY HAPPY BIRTHDAY













サイト開設したころにヒルまもサイトさまの
まもちゃんお誕生日企画に参加させていただいたことがありまして。
その時の作品です。
今回再録です。
『wish』では願うための祈り、
この『祈る時間』では感謝の祈りをテーマに書きました。




2007/4/14 UP



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