彼と彼女 9
『ENDLESS』










このまま2人、ずっと一緒に居れますように。
心が同じ場所に、ずっとずっと在りますように。







「終わってしまうのが怖かったの」
真っ直ぐに見つめてくる彼の視線から逃げるように、
教室の窓の外、宵闇の中に浮かぶ菜種月を彼女はその窓に両手をついて見上げる。
春の季節にはもう辿り着いてしまった。
彼も彼女も出逢った場所であるこの高校から離れがたく、
卒業した後も当たり前のようにアメフト部にも顔を出している。
引退式はひとつの区切りではあったけれども、OBとして係わることはできている。
「テメーは終わりにしたかったのか」
「違うわ」
頭(かぶり)を振って、言葉だけではなく態度でも更に否定する。
伸ばしつつある髪だけがさらりと揺れた。
「ヒル魔くんが遠くに行ってしまうのが怖かったのよ」
「その遠くってどこなんだ、言ってみやがれ」
「……ほら、アメリカとか」
「ケケケバカだなテメーは。今時アメリカなんざ日帰りできるぞ」
「確かにあなたにはそうでしょうけど……」
まさか高校を卒業しても、一緒にいれるなんて思ってもみなかった。
同じ大学で2人してまたアメフトに係れるなんて、
そんなものは夢だと心の何処かでずっと思っていたのだ。



背後に近づく気配は感じたけれども、もう彼女は逃げなかった。
彼女の肩には彼の腕が回り、そのまま抱き寄せられる。
「離れるつもりなんぞなかった」
「ヒル魔くん」
「もちろん離すつもりもなかったがな」
不意に目頭が熱くなる。
涙を零さないように気を遣いつつ、彼女は黙って頷いた。
「クリスマスボウルの夢は叶ったが、夢がそこで終わりになるわけじゃねえ」
「うん、そうね」
「次に目指すはライスボウルだ」






アメフトでの高みを目指す、その夢が在る限り、
何処にも終わりというものはないのだ。



いつまでも彼と彼女は同じ場所にいて、
きっと同じ夢を見ている。
お互いがそう願ってそこに在る。






終わらない夢を、見ていた。











2009/6/21 サイトUP




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