彼と彼女 8
『星に願いを』










満天の星が頭上には輝いている。
地上にも光が溢れている、この時期。




クリスマスはすぐそこで。




帰り道、彼女はあちこち通学路を立ち止まっては、
店や家のイルミネーションに見入っていた。
本物の木に大きな電飾がたくさん点いているのを見るのが
子どもの時から好きだった。
深緑の落ち着いた葉の色に光の華やかさが加わり、
高揚感も増していく。
見上げた空は星が降るように瞬いていて、
指を組んで祈る。
目を閉じて、彼女はその星に願う。





「願いが叶えばいい」





背後から、唐突に言葉は放り投げられた。
彼女は振り向いた。
彼が、そこには居た。





彼を信じきれないことに彼女自身が耐えられず、
少し彼との距離を置いた。
放課後の教室で一緒に過ごすこともなくなっていた。
毎日一人で学校から帰ることにも段々と慣れてきた。
ただ纏わりついてくる寂しさは振り払うこともできずに、
ずるずると引きずったままだった。
「あなたも何かを願うことがあるの」
「悪魔の願いなんて、叶えてもらわなくてもいい。
神なんか信じてねェ。それより……」
「……?」
「それよりテメーの願いが叶えばいい」
驚く彼女の感情は気にも留めずに、
そう言いつつ彼は光る星たちを見上げていた。
「……ヒル魔、くん」
自分から離れたのに再び駆け寄りたいと思うのは、
どう考えても傲慢で。
それが分かっていたからこそ、
自分に向かって差し出された手を見て彼女は泣いてしまった。
勇気を出して、彼女は彼に近付く。
一歩一歩近付いて、彼の手に触れた途端、そのまま抱き寄せられた。




「俺は神なんか信じてねェ」
「知ってるわ」
「だが信じてるもんがないわけじゃねェ」
「何を、信じてるの……?」
彼女は問うたが、それには返事がなかった。
ただ更に強く抱き締められただけだった。







クリスマスを迎える、この時期の星に願いを。
世界を覆うように瞬く満天の星にも、
鮮やかに7色の輝きを見せる地上の星にも願いを。








このまま2人、ずっと一緒に居れますように。
心が同じ場所に、ずっとずっと在りますように。



彼女の願いは、叶うだろうか。











2007/12/22 サイトUP




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