彼と彼女 7
『葉』










「切り離されていく葉は、何を思って落ちていくのかしら」
並木道で、彼女は舞い落ちる色づいた葉を見ながら呟いた。



はらりはらりと。
紅い葉が落ちる。
音も無く落ちていき、地上で踏まれて、微かな音。



彼は足元で音を規則的に生み出しながら、
言葉を返さずに歩いていく。
「あ、もう、待ってよヒル魔くん」
彼女は慌てて彼の後を追う。



追いついて、彼の横に彼女は並んで。
零れる言葉は止まらない。
「切り離されていくことに不安はないのかな。
落ちた後は忘れられてしまうのかな」
例えているのは紅葉した葉についてでも、
その不安を実際に抱えているのは彼女だということに
2人とも気付いてはいた。



「信じてない」
彼は立ち止まり、彼女の方を向いてそう言った。
「……テメーは俺を、信じてない!」
彼女の白く細い指を、彼の長い指は掴んで、力を入れ握り締めた。
「じゃあ……少しでも信じさせてよ」
震える声が漏れる。
彼女は涙目で唇を噛み締めている。
すっかり冷たくなった風に舞う葉だけが、
この時世界で動きを持っていた。



見ない振りをしていた。
少しずつではあったが、何かが壊れていた。
「ずっと傍にいて」と彼女は言わなかった。
「ずっと傍にいろ」とは彼も言わなかった。






季節は巡り、木々はまた
新しい葉をつけるのだと分かっている。
分かってはいるのだけれど。






それでも、春が来るのが、
もう今から怖かった。



まだ。


秋なのに。












2007/12/22 サイトUP




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