彼と彼女 3
『星と星が出逢う夜』









星と星が出逢う夜。
今年はちゃんと出逢えたのだろうかと彼女は
雨が降り続ける空を見上げつつ思う。



「七夕は終わってしまったけど、この雨の中、2人は出逢えたのかしら」
言葉は無意識に零れていた。
ここ数日はずっと雨だった。
「実際に年一度でも逢ってたらスゲーな。ベガとアルタイル、あんなでかい星」
「リアリストなのね。ロマンのかけらもない」
「テメーと一緒にするんじゃねぇ」
校門前からいくらかの距離を過ぎて、傘を差しつつ2人はいる。
憎まれ口を叩きながらも、彼は笑顔で。
その笑顔を彼女は見つめて、歩き出す。いつもの帰り道。
「……叶うかしら。それともやはりダメなのかしら」
「何か、願いごとでもしてたのか」
「してたわ」
「何だ」
「……」
突然押し黙る彼女は自分で自分を追い詰めている。
彼の視線は彼女に固定されたままで、それも彼女を追い詰めている。



「願いごとは何だ、言ってみろ」
「言わないわ」
「言ってみろ」
彼に譲る気配はなく、抗うことは出来ないのだと今更ながらに理解した。
「……願いはいつもひとつよ。あなたとずっと一緒にいれますようにって」
「願うってことは、そうはならないと思ってるってことか」
急に腕を彼の長い指で掴まれ、
そのまま引っ張られて傘が落ちて転がった。



彼に抱き締められ、彼女の息は苦しかった。
塞がれた唇だけが、雨の世界の中で熱を持っていた。



星と星は出逢えなくても、
彼と彼女は出逢いの果てにこの世界に居た。
来年も一緒に居れるかは分からない。
1年に1度でも逢えるかどうかなんて分からなかった。






高校生である最後の夏がやって来ていた。
もしかしたら2人で居れる、最後の夏かもしれなかった。













2007/9/4 サイトUP




Back