次から次に
欲しくなってしまうのだ





妖一くんとまもりちゃんのお話 その16
『欲張り』
(2006クリスマス記念SS)












「クリスマスも新年もどうだっていいんだ」
雪が降りそうな真冬の夜空を見つめながら
わたし、姉崎まもりに向かってヒル魔くんは言うのだ。





目の前にいるのは
とりあえずではあるかもしれないけれど「彼女」で、
一応ではあるかもしれないけれど「恋人」ではないんですかと
この男を小一時間くらい問い詰めたりしたかった。





今日はクリスマスイブ。
女の子にとって、大きなイベントのはずなのに。
アメフト部のみんなと楽しいパーティはしたけれども
「組長が行かなくてどうするの!わたしの誕生日には逃げたくせに!」と
無理やりヒル魔くんも引きずって行って、ちゃんと参加をしたけれども
それだけでは少し寂しかったりもするのだ。
そんなこんなの帰り道。





男の人ってこういうイベントって
面倒なだけなのかなあ…と思ったり。





「面倒に決まってるじゃねーか」
思ったので、直接そう問うたら
予想したとおりの回答が返ってきた。
そうだよね、と思いつつ見上げた空の色は暗くて。
落ち込んだ顔を見られるのが嫌で、ひとり、歩く速度を速めた。





「傍にいてやるだけじゃ…ダメなのか」
零れ落ちた呟きにわたしは歩く足を止め、振り返る。
街灯の光に照らされて辛うじて分かる、
その真面目な面持ちでヒル魔くんは言った。
「好きな気持ちだけじゃ、ダメなのか」















視界の中の彼の姿が揺らいだ。
「好き」の気持ちだけで良かったはずなのに、
いつの間に自分はこんなに欲張りになってしまったのだろう。




最初は、気持ち隠して見ているだけでも良かったのに、
付き合うようになってからは、いつでも一緒にいたくて
他の人を見て欲しくなくて、あまつさえ他の恋人たちと同じように
イベントや記念日などを気にしたりして。
なんて欲張りなわたしなのだと思う。
次から次に彼に関するいろんなものを欲しくなってしまうのだ。





「ごめん…なさい…」
頭を下げたら、涙が落ちた。
ヒル魔くんが近づく気配がする。
腕を頭の後ろから回されて、彼の胸に抱き寄せられた。
「糞マネ、テメーは俺が好きなのか?」
「そんなの決まってるじゃないの」
「ちゃんと答えやがれ。じゃないと分からねーぞ」
「…好き、よ。だから極妻やってんじゃないのよ、ヒル魔組の」
「俺はな。1年365日、俺に対するその気持ちがあって、
そしてテメー自身が傍にいればそれでいい」
「……ヒル魔くん」
「神の誕生日だろうが年が新しくなろうが、そんなことはどうでもいいんだ」






うれしくなって、わたしはヒル魔くんの背中に腕をまわし
しがみ付いたまま、目を閉じる。
涙はひと粒、また頬を伝って零れた。





今日の彼の言葉は、わたしに対するクリスマスプレゼントだろうか。
わたしは欲張りだから、
神様からの運命のプレゼントもたくさんもらいたかった。
……やはり祈らずにはいられない。










メリークリスマス。














突発更新。
拍手小話ではなく普通に更新してみました。
みなさまよいクリスマスをお過ごしください。



2006/12/24UP




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