遠のきかけた意識を
やさしく包み
眠りの世界へと
落とし込んでいく



子守唄のように
聞こえるのは
あなたの声で
あなたの歌で








歌が聞こえる










今年の夏は大変に激しい夏だった。





デス・マーチの真っ最中、
2日トレーニングして1日休んでの繰り返しで
わたし、姉崎まもりと泥門デビルバッツのメンバーは
ラスベガスを目指し、アメリカを横断していく。



今日は体を休ませる日で、トラックも止まっている。
朝から体調はあまりよくなかったのだが、とうとう立ちくらみを覚えて
これではいけないと、どぶろく先生に一言云って運転席で休む。
湿気が少ないのが救いだが、やはりこの暑さは体力を奪っていく。



シートに寄りかかって…目を閉じた。
意識が揺れた。









歌…
歌が聞こえる。







微かに鼓膜を通して、感じることのできる音は
音階を持っているようで。





わたしの意識はどうやら眠りを欲して浮遊していて
よく聞き取れないが、それは英語の歌だった。





意識を現実のほうに少しばかり近づけて
目を開けると
助手席にヒル魔くんの姿が見えた。



「……歌っているの?」
何故だろう。
まだ体の半分は眠りに向かいながら、
出てきたのはその問いだった。
他に聞くこともあっただろうに。
どうしてそこにいるのか…とか。
「それがどうかしたか?」
愛用のコルトを柔らかい布で拭きながら、ヒル魔くんはそう云う。
否定をしないということは、歌っていたのは彼なんだ…と思う。



「少し眠ってろ、糞マネ。テメーは無理しすぎだ」
無理しているのはあなたのほうじゃない…と思ったが、
言葉を発する前に意識が沈んでいく。







また。
聞こえるのは歌。






彼の歌う声はまるで子守唄のように
わたしの鼓膜にやさしく響いた。



そのひとときは
激しい夏の中での、やさしい時間。



わたしの意識を包み込んで
眠りの世界に落とし込んで。













あなたの。
歌が聞こえる。










構想はサイト開設前から持っていたのに
何処で歌わせるかで延々悩んで
完成がのびていた作品です。

部室で…とか、電車の中で…とか
いろいろ候補はあったのですが(笑)




2005/12/4 UP



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