ヒル魔がいつもの慣れた部室に行くと
そこに女がいた。



散らかっていて埃っぽかった部室が
数日前、突然きれいに掃除されて、
コーヒーの香りなんかもして。
すべてここにいる
今部室のテーブルに突っ伏して眠っている
この女の仕業。



春の風はさらりさらりと吹いていて
開け放たれたドアから入ってくる。
女の栗色の髪もさらりと微かに揺れる。



(…どうすっかな…)
まだ練習開始までは時間がある。
この部室には2人だけ。
マネージャーになったばかりで
張り切りすぎて疲れているのだろう…と
ヒル魔は眠っている女の栗色の髪を見つめる。
その髪が風に揺れるのを、ただ見ていた。












ほら
ほら風が
栗色の髪を揺らして



その風が
心をも揺らす



さらりさらりと
さらりさらりと









風に揺れて













ヒル魔がいつもの慣れた部室に行くと
そこに女がいた。



対戦相手校のデータの束や、
作戦に関するメモやらがいつのまにやら
きれいに整理され、まとめられていて。
すべてここにいる
今部室のテーブルに突っ伏して眠っている
この女の仕業。



秋の風は少しばかり冷たく吹いていて
開け放たれたドアから入ってくる。
女の栗色の髪もさらりと微かに揺れる。



(…どうすっかな…)
まだ練習開始までは時間がある。
この部室には2人だけ。
マネージャーも、ついでに主務の仕事もこなして
いくらなんでもそりゃ頑張りすぎだろう…と
ヒル魔は眠っている女の栗色の髪を見つめる。
その髪が風に揺れるのを、ただ見ていた。


そして触れたくなった。
















その髪に。



栗色で陽に透けて
さらりと揺れる、それに。



音をたてないように
起こしてしまわないように
背後から長い指を伸ばす。



触れる。
指のその柔らかな感触に
意識の何処かで風を感じた。
少し目を細めて、女を見つめる。





俺らしくねぇ、と思う。
どうしてこんな風に計算外に
衝動を抑えきれずに。



どうしてこんな風に計算外に。
女の存在は日増しに大きくなって。



揺れる髪はあの春の日から
変わらない。
ただ風だけが違うのに。



過ぎてしまったあの夏の
時間の分だけが違うのに。

















ヒル魔視点。
気に入っているSSです。




2005/11/27 UP


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