この宣言には、大きな意味がある








宣言
(2014/11/24 サイト開設9周年&姉崎まもりお誕生日記念SS)







俺、ヒル魔妖一がいつもの慣れた部室に行くと、
そこには当たり前のようにまもりがいる。
春夏秋冬を一巡して、季節はまた春に戻っていた。
開け放たれたドアから入る早朝の春の風が泥門デビルバッツの部室には吹いている。







「まーた、こんなとこで寝てやがる」
姉崎まもりはカジノテーブルに突っ伏して眠っている。
それはよく見かける光景だった。
さすがに受験生だ。
今はデータの山だけではなく、問題集なども傍らに積み上げられている。
糞チビたち、新生泥門デビルバッツの面々は、もう朝のランニングに出ているようだ。



まもりの近くまで寄って、頬を軽くつんつんと突いてやる。
小さく身動ぎをして、その眼を薄く開けた。
「ん……、あれ、ヒル魔くん」
「テメーは朝っぱらから何やってんだ」
「だって、部室のほうが勉強が捗るのよ!しょうがないでしょうっ」
「ンなこと言って、寝ちまってたら意味ねぇだろうが」
「そう、だけど。あ、そうそう、わたしヒル魔くんに話があるんだった」
その場に立ち上がったまもりに、俺は視線だけを寄越す。
向かい合った距離は近過ぎるほどに近かった。
まるで先手必勝とでも言いたいかのように、
そして、立てた人差し指を自分の顔の前で数回揺らして、彼女は宣言した。
「わたし、第一志望は最京大にするわ」



彼女にとって、この宣言には大きな意味がある。
俺より先に意思表示をしたというその1点で。
俺の卒業後の進路はどうだろうが、
自分の進路は自分で決めたのだという意思表示なのは分かっていた。
可愛いヤツだ、と思ったが、それは口には出さない。
「ほーお、そりゃ奇遇だな」
とあっさり返すと、まもりは驚いた顔をしてその場にへなへなと座り込んだ。
実は互いの志望大学が同じだという、言外の意味を読み取ったのだろう。
「ちょ、ちょっと、」
「なんだ」
「……ちょっと待って」
右の掌をこちらに見せつつ腕を伸ばし、まもりは項垂れている。
ああ、可笑しくてたまらねぇ。
「そ、卒業したらアメリカに行くんじゃなかったの」
「テメーは面白ぇ冗談を言うじゃねーか、糞マネ」
引退式は済んだものの、まだ次のマネージャーが決まっていない状態で、
糞マネという呼称についてのクレームはさすがに出てこない。
しかし何がアメリカだ。笑うような戯言を言いやがる。
日帰りで行き来できる距離じゃねぇか。
泥門デビルバッツを創世した3人の、
卒業後の進路はたぶんこのままだとばらばらになるだろう。
糞ジジイは家業を継ぐだろうし、あの糞デブには最京大は無理だろう。
炎馬あたりが妥当か?
だとすると、互いに目指すはもちろん日本一。
学生代表と社会人代表が直接対決する形となる「ライスボウル」、
所謂「アメリカンフットボール日本選手権」となる。



一生まもりのことは離さないとすでにこちらも宣言はしているが、
進路についてはきちんとした形で話したことは一度もなかった。
もし違う大学を選んでいたとしても、それはそれでいいかと思っていた。
縛る必要はない。
いつの時でもどこに居たとしても、もう自分の手から離すつもりはないのだ。
「同じ大学に来るってんなら、テメーを存分に使うぞ。
まあ違う大学(トコ)行っても、使えるモンは使うけどな」
「そうでしょうねぇ。……お手柔らかに」
小さく息を吐いて、まもりは笑顔を見せる。
さあ、楽しくなってきた。
俺とまもりが志望大学に入れないってことはまずないとして。
最京大でも他の大学でも昨年闘いあった年長の男たちがさらに力をつけて待っている。
この1年、泥門高校で俺は公式試合には出場することは叶わないが、
先輩として泥門デビルバッツには関わりつつ、
まだまだ自分を高めるためにここからいくらでも精進できる。






「なあ、糞マネ」
「名前で呼んでよ」
「じゃあ、姉崎」
「!?……な、何?」
突然の名前呼びに動揺しまくっているのが手に取るように分かる。
あんまり楽しくて、この現実も悪くはないと思えてしまう。
「……もう、髪は伸ばさねぇのか?」
「髪?」
「俺は、風に揺れるテメーの髪が好きだった」
まもりの頤に指を掛け、俺は触れるだけの小さなキスを落とす。
春に、秋に、世界を穏やかに揺らす風にさらりと揺れる髪を見つめて、
まもりに対する熱を追々に自覚したことを思い返す。
「そう、……そうね。また伸ばそうかなあ」
俺は笑んで、笑顔のまもりの背に腕を回し、きつく抱き締めた。









1年前と同じように、柔らかに風が吹いている。



アメフトは、面白ぇ。
一生かけて打ち込めるモンに俺は出逢ってしまった。
糞ジジイが戦列を離れ、戻る当てもなく、糞デブと2人でただ黙々と練習する日々があった。
その後、俊足のキリストと出逢い、その保護者となっていた聖母(マリア)とも出逢い、
たくさんの仲間たち、たくさんの好敵手と出逢い、ずっと抱えていた夢が叶った。
そして、これから先の人生においての新しい夢も手に入れている。



十分に満たされている、この現状に、
こういうのを「幸せ」っていうんじゃねぇのかと、
ヒル魔は自らに纏う風を感じつつ、そう思った。












まもちゃん、お誕生日おめでとう!



ああ、もうこの「宣言」も書いてしまった。
どうしよう、終わる終わる。
どんだけ自分、「風に揺れて」という話が好きかってことですよ。
たぶんアイシの全作品の中で「風に揺れて」が好きだと思います。
もう50作以上書いてるんですね、マリアシリーズ。
10年近くもかけてごめんなさいと言いたいです。
さすがに萌えのスパンが長すぎた。
今でも原作は大好きです。コミックス読んでます(笑)
残りは最終話のみ。
いろいろと感慨深いです。
最後までお付き合いいただけると幸せです。





2014/11/24 UP


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