触れた指の感触と
思ったより感じた熱と


それと
ああ
あなたの長い指


掌を重ねて
掌を重ねて










長い指











それはまだ秋の初めだというのに
風がとても冷たい日だった。



その日の練習も終わり、わたし、姉崎まもりが
ロッカー室のベンチに座り洗濯物の仕分けをしていると、
ヒル魔くんが部屋に入ってきた。
「まだいたのか、糞マネ」
「…いい加減、それ(糞マネ)はどうにかならないの」
「ならねぇな」
彼はあっさりそう返答して
わたしの横に腰をかけるとノートパソコンを立ち上げ始めた。





長い指。





彼の長い指が、キーボードの上で踊る。





どうしてあんなにすらっとしていて、長いんだろう…。





その指でボールを掴み、そして投げる。
わたしでは上手く掴むことができないその大きなボールは
彼の手によりきれいに回転しながら空を舞う。





自分の手を目前にかざし、彼の手をも視界にいれた。











するとキーボードの音がぱたりと止んだ。
「テメー、何をやってる」
「あ、え、あの」
彼の顔が近くにあって、すごくびっくりした。
気がついたら、こちらの顔を覗き込んでいる。
自然に顔が火照るのがわかる。
「指が」
「…が?」
「長い指がいいなぁって」
「あぁ?」
「ねぇ、どのくらい長いの?」
「…糞マネの思考はわかんねぇな」
彼はそういって、再びディスプレイに向き直った。
わたしは少し寂しくなる。俯いて冷たい床を見つめていた。
しばらくして彼は右手でキーボードを叩きつつ、
左手を、指を立て掌をこちらに向けて差し出した。
「手、出せ」
「ヒル魔くん…」





緊張しつつも、自分の右手をそっと差し出された掌に合わせる。
冷たいのかと思った掌はほんのりと温かくて、
思ったより感触は硬くなくて、
そして指は関節ひとつ分くらいはゆうに彼のほうが長かった。





心臓の鼓動が早くなって落ち着かない。
わたしは立ち上がり、手を離そうとした。
彼のその長い指から離れようとした。





その刹那。
わたしの指を割って彼の指が入ってくる。
1本1本組むように指は折り曲げられて。
「あ…あの、…離してよ」
「やだね」
わたしの顔を見てケケケとうれしそうに彼は笑う。
手を振っても離れない。
「もういいです。ありがとう」
「この指はくっついてしばらく離れません」
「…意地悪っ」
「そんなことは最初からわかってるだろーが」
「ヒル魔くんっ」
「ケケケ剥がせるもんなら剥がしてみやがれ」
左手を使って彼の指を剥がそうとするけれど、うまくいかない。
わたしの指だけが、ばたばたと動くのみ。
膨れっ面のわたしを見て、彼はますます喜んでいるようだ。
何故だかは、わからないけれど。



「しょうがないなぁ…もう」
非常に不本意ではあるけれども
嫌がられてはいないみたいだから…いいのかな?
わたしはそういう結論に行き着き、ふぅと息を吐いて
もう一度ベンチに座り直した。





彼のほうを見る。
彼はまた右手だけでキーボードを打っている。こちらは見てなくて。
わたしも洗濯物を右手で、床に置いたカゴから拾い上げた。





指は絡まったままで。
彼の手の意外な温もりを感じて。
胸のどきどきはおさまらないけれど。











もうしばらくは、このままで。
















映像が最初に浮かんだ作品で
そういう場合は文章にするのに非常に苦労します。
長くなるのであっさりと書いています。

中学生の息子とたまにやります。手の長さくらべ。
もうとっくにあちらが大きいです。




2005/11/24 UP


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