皆で抱え続けてきた夢が見える。









夢を語る












激しい音が鳴り響く豪雨の中、
俺、武蔵厳はその手にヘルメットを取った。




王城戦、20分のハーフタイム。
負けているとはいえ、泥門が7点差をキープし前半を終わらせた。
休養も大事だが何もしないではいられなかった。
掛けられた声に、言葉を返す。
「キックが腐っちまう。後半開始まで蹴ってくる」
たった20分の短いこの時間に、勝負を掛けている奴らがいる。
俺は俺にできることをするしかなかった。
蹴り続けるだけだった。







「20分だ」
まだ前半すら終わらない時間に、泥門の司令塔であるヒル魔は言った。
「20分よこしゃー、俺と姉崎と溝六が必ず攻略の突破口を見つけてやる…!」
そして真顔で言うのだ。
「この世に無敵の奴なんざいねぇ!!」
無敵と呼ばれる存在が夢を阻もうと聳え立つ。
けれど負けるつもりはさらさらなかった。




奴は夢を語る。
計算されつくしたようなすべての行動と言動の裏に、
皆で抱え続けてきた夢が見える。




奴を信じてここまで来た。
夢は、クリスマスボウルへの夢は近付いている。
だからこれからも信じていく。









後半が始まろうとしている。
両チームの皆がグラウンドに出てきた。
俺のキックから開始される後半だからなのか、姉崎がこちらを気にしている。
彼女が抱えている「先」への不安にはとうに気がついていた。
「……姉崎」
「武蔵くん」
「結局のところ『信じる』ことしかできねえのかもな」
言葉を掛けると姉崎は深く頷いていた。
そういえば、奴が『姉崎』と彼女の名を呼んだのを初めて聞いたな。








本当は奴こそが、
皆を精一杯信じようとしているのかもしれない。
信じることでここまで来れたのかもしれない。




そして皆が信じあって、
この先まで、クリスマスボウルまでの扉を開けつつ、
真っ直ぐに進んでいくのだろう。











夢を語るのは信じているからだ。
その夢が、真実になる日が来ると。














突然書きたくなって、入った話でした。






2008/8/12 UP


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