真っ直ぐに、言葉は。










それは愛の言葉












長い長い、1日だった。




神龍寺戦に勝利し、太陽VS白秋戦、西部VS岬戦を観客席で観戦した。
そして今日の最終試合の王城VS茶土戦は雷のためナイターになったので、
小早川セナは空き時間にモン太とあちこち巡っていた。
すると携帯が鳴ったのだ。
『どぶろく先生がちょっと変なのよ』
電話越しのまもりの声は切羽詰っているようで、そう言えば、
どぶろく先生は太陽の勝利に全財産を賭けていたんだったと、
セナはそのことに思い当たった。
破産して、落ち込んでいるのだろうか…?




駆けつけた2人の目の前、自販機が設置されている一角は、
積み上げられたジュースの山ですごいことになっていた。
どぶろく先生はへろへろの状態で、小銭を自販機の中に押し込んでは
出てきたジュースの缶をそこら辺に放り投げていた。
「セナ!」
「まもり姉ちゃん、大丈夫なの、どうしたの?」
ジュースを拾い集めているまもりにセナは声を掛ける。
「よく分からないんだけど……たぶん破産したのがショックなんだと思うの」
「そ…そうだろう、ね」
モン太と向き合って頷きあう。
「ヒル魔くんにも電話したんだけど、『放っとけ』で一蹴されちゃったのよ。
でもこのままってのも困るし、私だけじゃどうにもできなくて。
セナ達来てくれたのなら、ちょっとヒル魔くん、直接呼んでくるわ」
「あ、一緒に呼びに行くよ。モン太、ここ居てもらっていい?」
「モン太くん、お願い」
まもりのお願いモードに、モン太はその表情を緩ませて言った。
「いいっすよーっ、まもりさん!まかせてください!!」
「すぐに鈴音ちゃんもここに来ると思うの、よろしくね」
後を頼んで、まもりは観客席に出る。
そのまもりの背中を追ってセナは駆け出した。







「さっきまで座ってたとこにいないわ。ヒル魔くん何処行ったのかしら」
意図的に姿を隠されたような気がして、
これは探すのに時間がかかりそうだと思う。
「ねえ」
「……」
「まもり姉ちゃん、……好きなの?」
「え、何?」
声は、言葉になる。



まもりの背を見つつ、唐突にその問いはセナの口から零れ出た。
いつも気にしていた訳ではなかったのに。
発した言葉は、観客席の喧騒に音を拡散されつつもまもりの耳に届いた。
急いで駆けていたはずの彼女は立ち止まり、
呆然としつつもこちらを見ている。
「セナ……?」
慌てて口を掌で塞いだがもう遅かった。
どちらの気持ちも知りたかった。
自分がいかに我儘なのかも知っていた。
けれど彼にとっては大切な、大切な2人だったのだ。
セナはまもりの手首を掴み、そこから一番近い通路に2人入り込んだ。
駆けて。
駆けて駆けて。
人気が無くなるくらいまで奥まったところに入って、
まもりの傍には寄れず、セナは少し距離を置いて壁に背を凭れかける。
そして再度問うた。
「まもり姉ちゃん、答えてよ。ヒル魔さんのこと、……好きなの?」





「好きよ」と真っ直ぐに言葉は返ってきた。



何故かあまり元気はなかったけど、
顔色も少し青いような気がするほど、すぐれてはいないけど、
それでも真っ直ぐに自分を見つめて言葉は返ってきた。



それは愛の言葉だった。



通路左右の壁に声は反射しつつも空気に取り込まれ、
緩やかに拡散していく。
うれしくなってセナはその強張っていた表情を綻ばせた。
「なんか、うれしくて……」
「セナ」
「ごめん。ごめんね、まもり姉ちゃん。
何でなのかな、何でなのかよく分かんないけど訊きたかったんだ。
ずっとずっと訊きたかったんだよ」
俯いてしまったセナの傍に、まもりは慌てて駆け寄ってきた。
「謝らないで」
「うん」
「わたし、道の先歩いていけるの。
自分の気持ちちゃんと見えたから、それだけで笑っていられるの」
あれはいつの日の並木道。
まもりがらしくなく、ぽろぽろと零した不安を思い出す。
季節は秋の初めだったように思う。
あれから何か変わったのだろうか。
自分が大好きな2人の間に何かあったのだろうか。




「ありがとう、セナ」
今目の前にあるまもりの笑顔がとても貴重なものであると思う。
迂闊に零してしまった問いで、傷つけることがなくてよかった。
「行きましょう、ヒル魔くん探さなきゃ」
「あ、でも、ヒル魔さんはこっちが探しにくるのを予想して
わざと喜んで姿隠してそうな気がするんだけど」
「そんなのは予想の範疇よ。簡単には逃がさないから。セナ、行こ」
昔から変わらない、まもりのその差し出された手に、
セナは苦笑しながらも自分の手を伸ばした。
幼馴染である2人には、心の中に懐かしい時間の記憶がずっと保存されている。



まもりの「好き」という言葉は、自分に向けられたものではないけれど、
自分もいつか、誰かに向かってその言葉を告げる日が来るのかなとセナは思う。



シンプルな、その愛の言葉を。







いつも元気いっぱいな可愛くて明るい笑顔の持ち主が、
ふとセナの意識の端を過ぎって、それが何故かとても面映かった。
「よし、行こう」と呟いて、セナは繋いだ手を引いて駆け出した。






今日という日は、まだ終わらない。
長い長い、1日だった。


















ヒル魔には結局、王城VS茶土戦開始まで逃げられてた、というオチで(笑)
(途中で探すのをあきらめて戻った後に陸がやってきた、と、
そういうことにマリアシリーズではなってます)







2007/11/4 UP


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