何かの影が意識の奥底に沈む
月の光を徐々に覆っていく
そのどちらも何れも自分の持っているもの



全てを受け入れる
その勇気だけを欲している











月食












冬待ちの季節。
風はもうかなり肌寒さを感じるのに、
熱い戦いはずっとずっと続いていた。




またひとつ、勝った。
関東無敗の神、神龍寺ナーガに勝って、またひとつ、
みんなで見ている、クリスマスボウルへの夢に近付いている。
だが勝利に酔いしれる暇も無く、次の対戦へと何もかもが流れていく。



データは確かにあったのだ。
けれど実際に対戦するのはまだ先で、見る余裕も無かったというのが真実だった。
白秋ダイナソーズ。
太陽スフィンクスとの対戦に現れた峨王に、そこに居た誰もが息を飲んだ。
プリントアウトされていたデータを見て、
ひとつの事実に姉崎まもりは驚愕する。



地区大会の全試合、白秋ダイナソーズと対戦したチームのクォーターバックは
ずべてラインの峨王によって大ケガで退場させられていた。



「彼」も。
もしかして先で、泥門と対戦することがあったら彼も、そうなってしまうのだろうか。
あの悪魔のクォーターバックも。
まだ、対戦すると決まったわけじゃない。
白秋が勝ち進んで来ると、決まっているわけじゃない。
だが、意識の内側から侵食してくるこの重い不安はなんだろう。
この不穏なものの正体はなんだろう。
追って震えが来た。
想像の産物でしかない、彼の倒れた姿が脳裏に浮かんで付着していく。
逃れたくて、目を伏せ首をただ振った。







太陽戦後、峨王が観客席に乗り込んで、鈴音を庇ったまもりの前に
スタンガンを持って立ちはだかったのはヒル魔だった。
陸が名乗りを上げたことがきっかけで一応の落ち着きを取り戻した場内で
スイッチが切られたスタンガンをまもりは見つめる。
「その…怖いもの、しまってよ。……でも、ありがとう」
「……何かテメー考えてないか?」
厳しい声だった。痛い視線を向けられた。
「馬鹿言わないで」
「糞マネ」
「もういい加減慣れたわね、その呼ばれ方にも」
軽くかわす。逃げられないのは分かっている。
でも自分自身で把握できてない感情を今はまだ公にするつもりもなくて。
マグナムを抱え上げ、舌打ちの音だけを残して彼は移動していく。
セナ達のところに戻るのだろう。
「まも姐……」
鈴音の心配そうな顔が目の前にある。
「誰にも、怪我がなくてよかったわ」
そう言って、まもりは息をついた。
一瞬だけ、ヒル魔を目で追った。





隠し持っている不安がある。
その不安がゆるりと、心に淡く光っているはずの、
いつか2人で見たはずの月の姿を隠していく。
重なっていく。
光も不安の影も、そのどちらもまもりが抱え持っているものだった。





欲しいものは、その不安を乗り越えて
何があってもこの先を見つめていく勇気。




この先、彼に何があっても。
自分の眼下でどんな姿であろうとも、
全てを受け入れる、その勇気だけをまもりは欲していた。

















やっと季節は冬に移行です。







2007/10/24 UP


Back