世界を覆う闇の中に
月を探すようになってしまった。










探す月

(2006/11/24 サイト開設1周年&姉崎まもりお誕生日記念SS)












抽選会も終わり、全国高校アメフト選手権Bブロックで
泥門デビルバッツの初戦は、大会10連覇へ王手をかけ、
無敗の神と言われている神龍寺ナーガと対戦することになった。





抽選会のその夜、
アメフト部室のドアを開けると、ヒル魔の、春に比べて
かなり伸びた髪と、制服のブレザーを強く揺らして風が吹いた。
「けっこう時間かかってやがんな」
呟いて、陽が落ちて頭上に広がる群青色の空を見上げた。
ひとつ、ふたつ、輝き始めた星だけでは物足りなくて
もっと光を欲して、知らず月を探していた。




星にも月にも、そんなものには興味がなかった。
そのはずだった。




だが姉崎まもりという名を持つ、ヒル魔の傍にいる女が
あんまり愛おしそうに宙(そら)を見上げるので
いつしか自分も天上から降る光を欲するようになっていた。
世界を渡って大きく流れる雲を見ながら
いささか強すぎる風に心をも揺らしていた。
光を求めてしまっている自分に気が付き、驚きを隠せない。
その光にあの女を探していたのかもしれない。
月はまだ見つからなかったが、
替わりにこちらに向かって走ってくる姿があった。





「お待たせヒル魔くん、ここに居たの。
関東大会分の学校関係の手続きは粗方済ませて来たわ。
……何を見ているの?」
「月を、探してる」
「え」
上方を見上げるが、やはり月は見当たらないらしい。
もしかすると裏側の世界を照らしているのかもしれない。
「どうして探しているの」
「テメーのせいだ」
「…何故わたしのせいなのよ」
よく分からないといったように首を傾げている。





あのまま。
中学3年のあの時に、栗田が神龍寺に何事もなく受け入れられて
あのまま栗田とムサシと3人入学していたら、
きっと人生を変えるきっかけとなった、この女とは出逢わなかった。
フィールド上で心ひとつになれる仲間たちとも
出逢うことはなかったかもしれないのだ。






運命は必然なのか。
それとも偶然でしかないのか。






「テメーに出逢ったのは、運命なのかもしれねぇ」
「…運命論者だったの。知らなかったわ」
「あのな、…そういうわけじゃねぇ」






心の底から、すべてが運命なのではないかと、そう思う時があって。
自分らしくないその考えに、自分で呆れてしまう。
広がる漆黒の闇夜に、散らばる星や淡い光を伴う
月を探すようになってしまったのも、
きっとすべて目の前で悪魔に向かい、
光を纏って笑う聖母(マリア)のせいなのだ。






探す月は、頭上には見つからなくても
今、自分の傍には確実にいる。






ヒル魔をやさしく照らして、
そこに在るのだ。
















サイト開設1周年記念SS。
「探される月」とセットになっているSSです。






2006/11/24 UP


Back