見えなかったのではない
見ようとすら、しなかったのだ










存在理由












「でも行かなくちゃ」と、
セナはわたし、姉崎まもりに言ったのだ。





セナはアイシールド21なのだから、
フィールドに行かなければならない。
もうすぐ試合が始まる。
彼は走り出す。





不思議と喪失感はなかった。
だってどう考えても
ぜんぜん気がつかなかった、わたしが馬鹿だ。








  「セナはわたしが守るからね」
  「セナにアメフトなんて危ないんだから」
  「セナをいじめないで!」








とっくに。
そうとっくに。



セナを守る必要なんてないのに。
もう立派に自分の足で歩いていくことが出来ていたのに。



わたしはその現実を見ていなかった。
見えなかったのではない。
見ようとすら、しなかったのだ。





「勝手だなぁ私。ホントに勝手…」





意識せずに流した涙は、わたしの心を癒しはしなかった。
ただ流れた。
流れてしばらくは止まらなかった。





ずっと泣けなかったのに。
「どうして泣けないんだろう」
そうずっと思ってきたはずなのに。











そして考えてしまったのは、
自分が何故ここにいるのかと
そういうことで。





わたしはデビルバッツのメンバーとして
何ができていたのだろう。
何をするために、ここに今いるのだろう。





突然に不安になる。





セナはもうきちんとアメフト選手として一人前になっていたのに
わたしは…。







「マネージャー、姉崎まもり!」





『デス・アリーナ』に響く自分の名まえに呆然としてしまう。
わたしは、わたしの存在理由を思い出す。
マネージャーとして、あんなにも頑張ってきたではないか。
主務業もこなしてきたではないか。





行かなくちゃ。





わたしは行かなくちゃ。





わたしは涙を袖口で拭って、立ち上がった。












「考えるまでも無かった。犯人誰か」



「ヒル魔くん!!」





やられた、と思った。





そうだった。
あの悪魔は、わたしのことは何でも
お見通しだったんだわ。





すごくすごくしゃくだったけど、
それでもあの彼が、少しでもわたしを認めてくれてるのかもしれない。
そう思うと、デビルバッツの一員でいれてることに
少しだけでも自信を持つことができる。









わたしの何かが変わってしまうのかはわからないけれど
知ることから、始まるのかもしれない。





まずは、1歩。
それから。







今は泣いている場合じゃない。





そう。
まだ、今は。



















敢えて原作に準じています。






2006/6/14 UP


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