「決めたことが、あるんです」


そう言って向けられた
真っ直ぐな視線


いずれ
こんな日が来るのだと
知っていた








決断












呼び出されたのは盤戸戦の直前だった。



糞チビが俺、ヒル魔に向かって言う。
「ヒル魔さん。ちょっとその…、決めたことが…」
来たか、とは思った。
予想の範囲内ではあったのだが、
このタイミングでだとは思っていなかった。
「何だ」
「決めたことが、あるんです」
真っ直ぐな、真っ直ぐな視線。





アイシールド21が小早川瀬那であることを
公にすると、彼は宣言した。
もちろん、あの糞マネこと「まもり姉ちゃん」にも
自分で伝えるのだと…。





出会ったのは、春だった。
ビビリでパシリだったこいつが、大事な決断をしている。
大きくなったな、と思う。





「わかった」
「…いいんですか?」
「あのな、そこまで言っといて何迷ってんだテメー」
「え、で、でも」
うろたえている様子に、根本的なところは
何にも変わっちゃいねぇとは思うのだが、
それでも大きな1歩だ。
「後は任せろ」
「え?…何が?」
「…気にすんな。それより、時間ねぇぞ」
「あ、はい、行きます」
ペコリと頭を下げて、糞チビは背を向け駆けていく。










俺は小さく息をついた。
あの青い瞳を持つ女は
真実を知って泣いてしまうのだろうか。





もし泣き顔なんか見てしまったら
自分をどこまで押さえられるかが
分からなかった。





何ができるかを短い時間で考える。
臨機応変に。
動ける分は動くのだ。





俺は俺を信じているし、
糞チビのことも、あの女のことも信じている。














アイシールド21がその正体を明かす。






いずれ、そんな日が来るのを知っていた。

それが今日だったというだけだ。











気がかりはひとつだけ。






今までずっと泣けなかった
あの女は
今度こそ泣くのだろうか。



俺の前でも
泣くことができるのだろうか。








糞チビの決断は
大きく運命を変えようとしている。





唇を引き結んで
俺も、歩き出した。




















カミングアウト、その直前。






2006/5/31 UP


Back