所謂お節介をやいてみる









お節介












西部戦の翌日、朝練の後に姉崎まもりを捕まえて
俺、武蔵厳は昨日の話を持ち出した。
「昨日あの後…何かあったか?」



持ち出した…のはいいが、
姉崎の語る内容にいろんな意味で途方に暮れている。







「…ほんとうに気づいてなかったのか?自分のことだろうが」
「ん、もう…気づいてませんでした…昨日までは」
ちょっとばかり拗ねた表情で、そんなことを云う。
この姉崎はヒル魔に対する自分の恋心をまったく気づいてなかったのだ。
まあ無理もないと思う。
アイシールド21の正体が幼馴染の小早川セナだと
いい加減こちらもまだ気がついていないくらいなのだから。
「もしかしなくても、ばればれだった?何だか恥ずかしいわ」
「どうかな?俺は気づいてたがな…」
「ということは本人にはやっぱりばれてるのかしら」
俺が分かるくらいだ、あの野郎はとっくに気がついているだろう。
ただ態度に変化がない奴なので気持ちはまったく掴めないが。
ちょっと楽しく突いてみようかなと思ってはいるのだが、
地雷を踏んでしまいそうでその辺で躊躇もしている。



「武蔵くん…」
「ん」
「もしヒル魔くんに振られても…笑わないでね」
「…あぁ?」
加えてヒル魔が姉崎をどう思っているかもまったく分かってないらしい。
こちらはばればれでも困るのでしょうがないのだが。
ここまでくれば本人たちの問題なのだから
放っといてやるのが筋なのだろうが、そこはそれ、
何故かお節介をらしくもなくやいてしまうので、俺は今ここにいたりする。





「でも今はそれどころじゃないわ。盤戸戦に向かって進まなきゃ」
姉崎は笑顔で言う。
「ん、そうだな」
俺も笑った。










部室のドアが音をたてて開き、ヒル魔が入ってきた。
「テメーらは、いつまでも何やってんだ」
「いっけない、予鈴鳴っちゃうわ!急がなきゃ」
姉崎はばたばたと部室を出て行く。
ヒル魔は何か荷物でも取りに来たのだろうか、部室の奥に入って行く。




「ヒル魔」
「…言いたいことがあるんならさっさと言え、糞ジジィ」
ヒル魔は立ち止まって、こちらを見た。
俺は大きく息をつく。
「気づいてないはずは…ないよなあ」
「あぁ?」
「姉崎の話」
顔を背けてヒル魔は舌打ちする。
「テメーは何考えてんだ。今そんなこと言ってる時期か?3位決定戦もすぐだ。
そうでなくてもあちらから喧嘩売られてるだろうが」
確かに盤戸スパイダーズの佐々木コータローは今朝
bPキッカーをかけて果たし状代わりにコントロールのすごさを
デビルバッツの面々に見せ付けて行った。
「まあそうだが。その辺わかって訊いてるぞ、俺も」
暫しの沈黙を落とした後にヒル魔は笑った。
「ケケケ、今更焦ることもねぇ。
…目の前にいる糞ジジィのおかげで待つのだけには慣れてるんでな」
「そりゃ…すまんかったな」
「まったくお節介が過ぎる」
ヒル魔のその物言いに俺も笑いを漏らした。
「ま、とんでもなく分かりにくいが嬉しいのは嬉しいんだな。
姉崎はおまえの気持ちに気づいてないようだが」
「テメーはな…」





ヒル魔がそう呟いた瞬間、聞き慣れた金属音を耳にして俺は体を強張らせた。
「…待て!ランチャーを出すな!
おまえ、俺が相手だとわざとでかいヤツを使おうとするだろうが!」
「たりめーだ!」
慌てて部室を飛び出す。
だがさすがに部室を修理させる時間が惜しいのか、本当に発射はしなかった。








前にも、同じようなことがあったような気がする。
ヒル魔がいて、そうだ姉崎もいて…
ランチャーの発射音は響いて、その後部室を修理しに来たんだ。









いつのまにか。
いつのまにか時間は過ぎていて。








あの春の日に抱えていた焦りはもう無くなっていた。
真っ直ぐにクリスマスボウルに向かって
進み続けることができる幸せを思う。
いろんなことが動いて、何処かで自分も変わっていって
今、前だけを見ることができるその幸せを十分に感じていた。














お節介のひとつも
やいてみたくなるもんだ。

















このままのんびり行くといいのですが、
セナのカミングアウトの瞬間は
だんだんと近づいて来ているのです。





2006/5/5 UP


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