羅針盤は
まわり続けて止まらない
蹴ることができなかった
キックと共に


俺は
ここから何処へ向かっていくのだろう











羅針盤








「もう〜〜〜」

ヒル魔に用事があって、ある初夏の日の放課後
改装したばかりのアメフト部室を訪れた俺、
武蔵厳がドアを開けると同時にその声は耳に飛び込んできた。


今はすっかりアメフト部のマネージャーに納まってしまった
姉崎まもりの声だ。
どうやらヒル魔にまたまた遊ばれているらしい。
最近よく見かける光景である。
部室にはその二人だけだった。


「ヒル魔くんは、私【で】遊んでるでしょう!」
「よく分かってんじゃねぇか」
「何よもうっ」
「今日はよく牛が鳴く日だ」
「ヒル魔くん!」


顔を赤らめて、それでもちょっとは怒っている姉崎と
いかにも楽しそうなヒル魔の顔を見て…
俺は言ってしまったのだ。


「ヒル魔、おまえそれじゃ小学生だぞ」


瞬間、ヒル魔の動きがピタリを止まり、片方の眉が少しばかりつり上がる。
眼光は鋭く、俺のほうを見る。
背筋に冷たいものが走る。
「…あ、あら、武蔵くん」
姉崎がやっと俺に気がついた。
同時にヒル魔はロケットランチャーをこちらに向かって構えた。
金属音が部室に響く。やばい。


「まて、ヒル魔!部室でランチャーはやめろ!!」
「ケケケケ…修理するのは、どうせテメーだ。糞ジジイ!!」


慌てて姉崎が部室のドアを全開する。
俺は部室から退避した。
響く爆音と揺れる建物。
間一髪で逃げ出すことに成功する。
姉崎の声が響いた。





「あの…バカヤロー…」
さすがというか…勘が良すぎるというか。
「それじゃ小学生だぞ」言外に込めた意味は実は二つもあって
そのどちらもをヒル魔は瞬時に理解した。


   姉崎に対するその態度は、小学生の恋愛と同じだぞ。

   俺はおまえの気持ちを知ってるぞ。


なあ、気が付いているか。
人は変わっていくんだぞ。
部室から遠ざかりつつ、俺は思う。
アイシールド21こと小早川セナがアメフト部に入り、
彼を追ったように姉崎もマネージャーとして加入し、
それ以外にも新入部員は増えて活気がある今年のアメフト部。


ヒル魔も昨年のヒル魔ではなく、そして姉崎も昨年の硬さはない。
人と人が出会って、もしくはその距離が変わって
新しい関係ができていく。









俺だけが。
俺だけが今、何処にも行けずに。


人生の羅針盤は壊れたまま、方角を示すはずもなく回りつづけた。
このまま止まらないのか。
それともどこかで無理やり止めてしまうのか。









夢をかなえる最後の秋が
だんだんと近づいていた。

















ムサシくん視点のお話。カジノ部室ができた直後くらいかな?
彼がデビルバッツに復活したときはすごくうれしかったです。
ヒルまもの理解者であってほしいと思っています。




2005/11/24 UP



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